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千住真理子さんが語るチャイコフスキーの魅力。「色彩豊かなドラマに心躍らせて」

私たちの心に寄り添うチャイコフスキー 第5回(全9回) 2020年に生誕180周年を迎えたピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~1893年)。時に甘く、時に悲しく、深く、語りかけるその音楽は、子どもから大人まで聴く者の心をとらえて離しません。本特集では、彼が生前暮らした家や資料、チャイコフスキーに魅了されたかたがたの言葉から、チャイコフスキーの心の奥底、その音楽の真髄に迫ります。前回の記事はこちら>>

指揮者、演奏者、演出家が語る
チャイコフスキーの聴きどころ(2)

(1)小林研一郎さん>>

千住真理子さん
「本当にいい音楽には苦しみや寂しさがある。何か答えを見つけたい時こそ音楽を必要とするのでは。小品では『瞑想曲』『感傷的なワルツ』もおすすめです」。
千住真理子(せんじゅ・まりこ)さん
ヴァイオリニスト。1979年パガニーニ国際コンクールに最年少入賞。数多くの名曲を収録したCDほか、『日本のうた』も好評。国内外での精力的な演奏活動のほか、書籍刊行、ボランティア活動など幅広く活躍。幻の名器ストラディヴァリウス「デュランティ」所有。2020年にデビュー45周年を迎えた。https://marikosenju.com/

【ヴァイオリン協奏曲】
「色彩豊かなドラマに毎回心躍らせて」
千住真理子さん(ヴァイオリニスト)

チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」、これほど色彩豊かなドラマを感じて弾ける曲はないと思います。出だしから自分が主人公になった気分で興奮したり、感動したり、嘆いたり、毎回新しいドラマを感じながら弾いています。

興奮したり、感動したり、主人公の気持ちと共鳴して

私にとっての山は、第1楽章のカデンツァ後。カデンツァで孤高の語りがあり、その後バックにオーケストラが入ってきて、本当に打ち解けた心が広がっていく──主人公が心から物を語っているのではないかと思います。

第2楽章冒頭ではチャイコフスキーならではの、遠く広い空間の中での寂しさを感じます。それはロシアの大自然かもしれません。

第3楽章は地の底から湧き上がるリズムに足を踏み鳴らしながら弾きたくなります。しかしそれは単なる楽しい舞踊曲ではなく、決して解決されない葛藤や思いが、抑えきれない鼓動として生まれ出てきたものではないでしょうか。

「メロディの中にポエムがある。彼の声を探りあてて音にしたい」

チャイコフスキーのメロディの中にはポエムがあります。音には年代物のワインのように雑味があり、そのバランスによってどんなふうにも調合できる魅力があります。チャイコフスキーの音、すなわち彼の声をどうやって探って音にしていくかが一番大切ですね。

年齢を重ねるたびに、音楽から感じとるものは変化しています。10代の頃は技術的に弾きこなすことに精一杯でしたが、20代でようやく音楽として捉え始め、今はチャイコフスキー独特の寂しさを感じるようになっています。日本の歌にも寂しげな懐かしさがあるので、私たち日本人も強く共感できるのかもしれません。

作曲家や作品との対話においては、決して理解し尽くせない部分があって、それは練習するほど、年齢を重ねるほど見えてきます。知れば知るほど深みにはまっていくのがチャイコフスキーです。

7年の挫折から完全復帰。きっかけはまさにこの曲!

実は20歳の時に挫折して一度ヴァイオリンをやめました。しかし2年後、やはり本当の音楽をやってみたいという新たな気持ちが芽生えて再開しましたが、ステージの感覚が戻らず葛藤の日々でした。

7年目のある日、チャイコフスキーの協奏曲を弾き始めたところ、カデンツァの手前で、一瞬にしてすべての感覚が戻ってきたんです!夢から覚めたような瞬間でした。その時以来、この曲は唯一無二のコンチェルトです。

指揮者、演奏者、演出家が語るチャイコフスキーの聴きどころ
(3)藤田真央さん>>
(4)斎藤友佳理さん>>

撮影/武蔵俊介 取材・文/菅野恵理子 編集協力/三宅 暁 取材協力/Natalia Goryacheva ロシア国立チャイコフスキーの家博物館

『家庭画報』2021年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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