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少年が鳥たちと飛翔する現代仕立ての冒険譚『グランド・ジャーニー』

2020.06.18

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〔今月のシネマ〕
『グランド・ジャーニー』

『グランド・ジャーニー』

©2019 SND, tous droits réservés.

ナビゲーター・文/福岡伸一


ネットゲームに興じる都会の少年が、いきなり沼沢地が広がるフランスの片田舎に放り込まれ、Wi-Fiはないわ、蚊はいるわで、最初は文句タラタラだったのに、いつしか自然の美しさに触れ、鳥たちとの交流に開眼していく、というストーリーはちょっとお約束っぽくもあるが、鳥たち(カリガネガン)が大空を飛翔する姿にたちまち魅了されてしまった。

鳥は生まれて最初に出会ったものを親と認識する。ノーベル賞動物行動学者コンラッド・ローレンツの有名な「刷り込み理論」である。

少年の父は、これを利用して絶滅に瀕するガンを調教し、安全な渡りのルートを教えようと計画している。フランスのガンは北欧とのあいだで渡りをする。

親がわりに使われるのは超軽量飛行機。少年は操縦法を身に着け、危なげに飛行しつつ、鳥たちを先導する。

本作に興味を持ったのは、『WATARIDORI』という優れたドキュメンタリー映画を見ていたからだ。渡り鳥の群れに可能な限り接近し、あるときは群れの中に入って撮影された貴重な映像が驚きだった。

その撮影に協力したのが、本作のモデルになった自然保護運動家クリスチャン・ムレクである。

『WATARIDORI』では、無心に羽ばたく鳥たちの素朴な映像美がメインテーマだったが、今回は冒険アクションが全面に押し出されているので、鳥たちと飛行する少年の映像は必ずしもドキュメント手法だけで作られているわけではない。

途中、官僚主義や大人たちの不手際で頓挫しかかる計画を、少年がひとりで引き受けて敢行する展開もいささか通俗的なのだが、鳥たちの優美な飛行に免じてそれは許そう。

興味深い点は、SNSの力が物語の推進に大きく寄与していることを活写していること。

少年がたまたま不時着した、言葉も通じない小村で出会った少女がスマホで撮影した動画がネット投稿され、それが共有されて多くの人々が少年の支援に手を貸すこと、あるいは、それを見つけたマスメディアが動き出すこと。スマホのGPSが大活躍すること。このあたりはいかにも現代的な冒険譚に仕立ててある。

鳥が大好きなバードウオッチャーやわたしのようなナチュラリストにとっては、十分楽しめる映画なのでぜひ推薦したい。

福岡伸一(ふくおか しんいち)
生物学者。『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』など著書多数。ブックマイスターを育てる福岡伸一の知恵の学校も開校中。近著に『ナチュラリスト生命を愛でる人』など。

『グランド・ジャーニー』

渡り鳥に安全なルートを教えるため、超軽量飛行機で一緒に空を飛ぶという誰もが驚くプロジェクトを画策する気象学者のクリスチャン。14歳のトマは風変わりな父と過ごす夏休みにうんざりしていたが、雛の孵化に立ち会ったことで、鳥たちへの愛着が湧き始め......。

2019年 フランス・ノルウェー合作 113分
監督/ニコラ・ヴァニエ
出演/ジャン= ポール・ルーヴ、メラニー・ドゥーテ、ルイ・バスケス
公式URL:https://grand-journey.com/
2020年7月23日から新宿バルト9ほか全国公開

取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2020年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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