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光と影が、心に深い余韻を残す。映画『ジュディ 虹の彼方に』文/小池昌代

2020.03.12

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〔今月のシネマ〕
『ジュディ 虹の彼方に』

ジュディ 虹の彼方に

© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

ナビゲーター・文/小池昌代


タイトルにある「ジュディ」とは、『オズの魔法使』で大ブレイクを果たした、往年のアメリカ人女優兼歌手、ジュディ・ガーランドのこと。

「虹の彼方に」と聞いてピンとこない人も、“サムホエア〜オーバーザレインボウ〜”と歌いだされる、あのメロディなら、きっとどこかで耳にしたことがあるはずだ。

半世紀をはるかに超え、この歌は今も、世界中の人々の心に染み込んでいる。

虹の彼方、空の高みのどこかに、夢のかなう、青い鳥の飛ぶ、そんなところがあるって、子守唄で聞いたの。──希望を歌った歌なのに、聴くたび、さみしさを覚えるのはなぜか。

私たちは、実は知っている。そんなパラダイスなどどこにもないと。しかしだからこそ夢見るのだ。この曲に深く惹かれるのだ。

映画では、一躍大スターとなった十代の頃から、歯車がどこか狂ったような、危うさのある晩年までが織りなすように映し出される。

太ることが禁止され、怪しい薬物を摂取させられていた十代の頃。晩年には、支払いが滞り、ホテルを追い出されるようなこともあった。

離婚し親権を得た2人の子供も、遠くロンドンで続く長い興行のため、置いて行かざるを得なかった。

結婚と別れを繰り返し、最後に出会った、はるか年下の夫ともまた、関係が破綻。47歳の死はあまりに早い。

しかしどんな惨めな状況にあっても、この映画の中の彼女は、少しも哀れではない。描かれ方に一貫して、ジュディ・ガーランドを尊重する、あたたかい眼差しが通っているせいだろう。

当時としては稀有なことだったはずだが、ジュディは性的なマイノリティに偏見がなく、愛のあった人として描かれている。

彼女のファンである同性愛の男性カップルが登場するが、彼らの存在がこの映画に、ユーモアと品格をもたらしている。

主演のレネー・ゼルウィガーが、何と言っても素晴らしいのだ。もはや若くなく、薬物摂取の副作用か、だいぶ痩せていたといわれるジュディの晩年を、しなやかな肢体と、成熟した裸の背中ひとつで渋く演じる。

明るいステージと、闇に包まれた観客席。光と影が、観る者の心に、深い余韻を残す。

小池昌代(こいけ まさよ)
詩人、作家。近著に詩集『赤牛と質量』や『幼年水の町』『影を歩く』、小谷野 敦氏との対談集『この名作がわからない』。最新刊は文庫版『黒雲の下で卵をあたためる』。

『ジュディ 虹の彼方に』

映画スタジオの支配下に置かれ、17歳でスターダムに上り詰めて30年。紆余曲折の末、今は子どもを連れて巡業ステージで生計を立てているジュディ。借金を抱え、ホテルを追い出された彼女は、イギリスのクラブからショーの依頼を受け、単身ロンドンへとわたり......。

2019年 イギリス映画 119分
監督/ルパート・グールド
出演/レネー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル
URL:https://gaga.ne.jp/judy/
2020年3月6日より、全国ロードショー
取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2020年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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