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【新連載】人気作家が語る、この時代に「小説を書くということ」白石一文さん

2020.02.18

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【新連載】小説を書くということ~作家が語る、書くこと、読むこと 小説が読まれない、小説が売れない。そんな話を耳にする昨今。けれど、よい小説には日常とは別の時空を立ち上げ、読む人の心をとらえる“何か”があることは、いつの時代も変わらない事実。SNSやブログを通じて、誰もが書くことができる今、小説を書くとはどういうことなのか。小説家はどんなことを考えながら、小説を書き、読んでいるのか。作家の方々に、それぞれの小説作法を尋ねます。

第1回 白石一文さん
〔前編〕


しらいし かずふみ●1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文藝春秋勤務を経て、2000年に『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。近作に『記憶の渚にて』『一億円のさようなら』『プラスチックの祈り』など、著書多数。最新刊は、北澤平祐さんとの共著の絵本『こはるとちはる』。





「世の中にこんな楽しいことがあったんだって、本当にうゎーって感じでしたね。そこからは学校にもほとんど行かず、小説一本やりでした」。大学1年の終わりに初めて小説を書いたときの感興を、そう表現する白石一文さん。

海洋時代小説の第一人者で父親の白石一郎氏と、史上初、親子2代の直木賞を受賞したように、作家のDNAを受け継ぐ――そんな白石さんは、小学生のときから父上の小説を読み始め、中学生になると、作品の感想を口にするようになっていたそうで、“それが自分たち親子の語らいの時間でした”と、当時を振り返る。

近作の『記憶の渚にて』『プラスチックの祈り』では、作家を主人公に、時間、記憶、運命というご自身にとっての永遠のテーマに正面から取り組んだ白石さんだが、自伝的小説『君がいないと小説は書けない』では、その強いタイトルが伝えるように、小説を書くということについて深く言及している。

会社の仕事はすごく楽しかったけど、このままでは小説家になれないという気持ちをつねに抱いていた出版社時代、ふたりをつないでいたのは小説だったという父子の関係、死への意識を否応なく持たされることになった病気、失敗してしまった家族のこと、自分は今、彼女に支えられているという最愛の妻のこと……。

小説を書くことにだけ、存在意義を持ち続ける作家の気持ちが率直に反映された小説は、人間にとって幸せとは何なのかと、読み手に問いかける。

白石一文『君がいないと小説は書けない』(新潮社刊)


 私は非常に偏った人生を生きてきた。

幼少期からずっと身の回りには物書きしかいなかった。父、父の作家仲間、父の弟子たち。A社に入って編集者暮らしを始めてからは仕事相手もすべて物書きだった。前妻のりくは写真家だったが、彼女も筆の立つ人で、出版した写真集には長文のルポルタージュが添えられ、そっちの方で高い評価を得たくらいだ。

個人的に親しくしている人で、一冊も本を出していない人間は、妻のことり以外には一人も見つからない。

私はずっと本の山の中で本を書く人たちと交わって生きてきたのである。

なので、子供の頃から自分が何も書かない・・・・・・と想像したことがなかった。私にとって小説家になるのは、とても困難なことだったが、それと同じくらい当然のことでもあった。

白石一文『君がいないと小説は書けない』より


自分が何者かを知りたくて小説を書く


――小説を書くとはどういうことか、なぜ小説を書くのか。白石さんは、いつもそのことを考えている作家という印象があります。

最近は、主人公がほとんど物書きでしたしね。昔は楽屋落ちみたいな気がして、小説家を主人公にしようなんて考えたこともなかったんです。

でも、だいぶ前に作家の藤沢周さんと話す機会があって、“小説を書くときに極端に自分外しをしていると、だんだん嫌になってくる”と僕が言うと、“そうしていると、自分自身から逃げていることになる気がする”と、彼も強く同意してくれたんです。

架空の設定、架空の人物に託して小説を書けば、何かあれば知識や資料に頼ることができるけれど、それだと自分が抱えている問題を突き詰められないという気持ちもあったし、自分が何者かを知りたくて小説を書いているのに、そこから逸れてしまうのはどうなのか、と。そんなこともあって、しばらくは自分を土台に、作家が主人公の作品を続けましたけど、今はまた少し心境が変わってきています。

――やはり、そういう振り子の振幅はあるのでしょうか。

ありますね。この小説でも書きましたけど、おもしろい小説ならいくらでも書けると思っていたんです。でも思っているだけじゃダメなので、自分の言いたいことや理屈っぽいことは脇にどけて、おもしろさだけに特化した作品(『一億円のさようなら』)を書いてみたんです。

ところが、期待したほどの反応がなかった。そもそもおもしろいものならいくらでも書けるけれど、そうじゃないものを書かなければ、という考え自体が著しく観念的だったわけで(笑)。そんなふうに増上慢をかましていて行き詰まったので、また宗旨替えしているところです。

――書き下ろしでの刊行が中心の白石さんには珍しく、今回は月刊小説誌での連載でした。

『プラスチックの祈り』は週刊誌の連載でしたけど、あれも連載前にほとんど書き上げていたので、毎号、編集者と原稿をやりとりしたのは初めてでした。一度、作家らしく、締め切りに追われて担当編集者に“お原稿はまだでしょうか?”と催促される、みたいなことをやってみたかったんですけど、根が臆病だし、とにかく身体が弱いから、もし寝込んだらどうしようとか思うと、つい書き溜めてしまうんですよね。

それでも原稿はギリギリでわたせばいいのに、編集者に意地悪すると罰が当たるんじゃないか、パソコンが突然、クラッシュしてデータが消えたらどうしようとか、USBでバックアップも取っているのに不安になってしまうので、結局書き上げるとすぐに原稿を送っていました。
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