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個展『青木野枝 霧と鉄と山と』を林 綾野さんがナビゲート。鉄輪に見る懐かしい風景

2020.02.21

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〔今月の美術〕『青木野枝 霧と鉄と山と』

『青木野枝 霧と鉄と山と』

《霧と鉄と山─Ⅰ》2019年 鉄、ガラス、波板 左は作家の青木野枝さん

初めて見るのに懐かしい風景が現れる彫刻空間


ナビゲーター・文/林 綾野


主に鉄を素材に彫刻を制作してきた青木野枝。東京では約20年ぶりとなる個展が開催されている。

丸鋼を用いた細い塔のような初期作、使い古された石鹼を積み重ねた《立山》など、代表的な作品に加え、府中市美術館の空間に合わせて構想された新作、さらに平面作品やスケッチブックなども展示されている。

《霧と鉄と山-Ⅰ》は、高さ4.5メートルに及ぶ壮大な作品。溶接された大小の鉄の輪が山の形を成す。

一見無機質な鉄輪だが、所どころにガラスがはめ込まれ、連なり重なり合う様子がどこか温かな雰囲気を纏う。

青木は作品について「見たいけれどこの世界にないもの。それをつくっている」と語る。

こんな風景を見てみたい、そうした想いのもとにスケッチを重ね、慣れ親しむ鉄という素材でそれを具現化することで作品が生まれるのだ。

こうした巨大な作品の多くは、展示後、解体されてしまう。しかしそうしたありようも青木の作品ならではといえる。

たとえ作品が消えても、その存在感は私たちの記憶の中に染み込むように残るからだ。

「この傾斜、子どものときに駆け上がった丘に似ている......」。この作品から受ける初めての印象と、自分の古い記憶がふっと繫がる。

幼いころの体験や自然の中で感じた何か。

空想や初めて見るものに対する興奮や感激。私たちの中に点在している様々な感覚が作品をきっかけに呼び起こされる、そんな感じだ。

untitled

手前/《原形質》2012年 石膏、布、鉄 奥/《untitled》1992年 鉄、卵、銅線

青木が生み出す「まだ見たことのない風景」は、私たちの中にじんわりと入り込み、心の中で他の感覚と混ざり合い、記憶の一部になっていく。

柔らかな丸みが優しい《原形質》、鉄と卵が融和する《untitled》、青木の作品と対峙すると、そんな不思議な感覚を伴いながら、人生で出会う風景が増える感じがして嬉しい。

心を開き、自然の中を散歩するみたいに作品の周りをゆっくりと巡りたい。

林 綾野
はやし あやの/キュレーター。美術との新しい出会いを提案するため、画家の人生や食について研究している。ゴッホやフェルメールなどを紹介した『絵本でよむ画家のおはなし』シリーズなど著書多数。

『青木野枝 霧と鉄と山と』

『青木野枝 霧と鉄と山と』

ドローイング

鉄や石膏など固くて重い素材を用いながら軽やかな印象を残す新しい彫刻のスタイルを創出した青木野枝。大気や水蒸気をモチーフとして、万物がうつろいゆく中の生命の尊さを表現してきた。展示室の空間全体でそれが強く体感できる。

府中市美術館
〜2020年3月1日まで
休館日:月曜、2月25日(24日は開館)
入館料:一般700円
ハローダイヤル:03(5777)8600
展覧会の詳細はこちら>>
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/永野雅子

『家庭画報』2020年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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