アート・カルチャー・ホビー

名作『男と女』から半世紀、2人を描く、その奇跡『男と女 人生最良の日々』

〔今月のシネマ〕
『男と女 人生最良の日々』

『男と女 人生最良の日々』

© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

ナビゲーター・文/平松洋子

覚悟といえば大げさだけれど、本作を観るにあたって少し緊張した。あの名作『男と女』(1966年)は、それだけ大切な映画だったから。ところが—。

まず、奇跡としかいいようがない。キャストもスタッフも50数年前とすべて同じ。

監督クロード・ルルーシュ、主演のジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エーメ、音楽フランシス・レイ……。かつて『男と女』を世に送り出した人々が再び“続編”を撮るだなんて、映画史上初の試み。

いま80代になった主演の2人は、ルルーシュから新たに声が掛かったとき、戸惑ったと伝えられるが、しかし、郷愁やオマージュではなく、ヴィヴィッドな時間が描かれていることに驚嘆させられ、あの『男と女』を支配していた映画の魔法の復権に酔いしれた。

レーシング・ドライバーだったジャン・ルイは、海辺の街の介護施設で暮らしている。老齢の記憶は喪(うしな)われかけ、かつて愛し合いながら結ばれなかったアンヌを夢想する日々。

その様子を案じた息子に“施設を訪ねて会ってやってくれないか”と頼まれ、アンヌがジャン・ルイを訪ねて2人は再会する……。

シンプルなストーリーは、やはり驚くほどの芳香を湛えている。80代を迎えてなお、2人のあでやかな存在感。老いを超越して滲む色気。男女の機微に充ちた言葉のやりとり。

そこに1作目の映像と音楽が巧みに差しはさまれて時間の流れが豊かにふくらみ、2人の現在が肯定されてゆく。

いっとき2人のあいだに溢れた愛を、映像表現をつうじて掬い上げるルルーシュの包容力に痺れる。

映画を観ながら、若さと老いの時間が自分のなかでしだいにひとつの流れとして繫がってゆくのを感じ、体温が上がってゆく思いがした。

1作目のとき、2人の幼い子どもとして登場していた男女が、本作のなかで同じ役柄で再会し、新たな一歩を踏み出すなんて誰が想像しただろう。その意味でも、果敢な挑戦作だ。

トリビュートでもなく、オマージュでもなく、記憶の再生産でもない。賞賛のため息をもらしながら、観る者ひとりひとりの現在に響き、雄弁に語りかけてくる映画である。

平松洋子(ひらまつ ようこ)
エッセイスト。講談社エッセイ賞を受賞した『野蛮な読書』や『洋子さんの本棚』など、近年は本についての作品を数多く発表。近著に『そば ですよ(立ちそばの世界)』『忘れない味』など。

『男と女 人生最良の日々』

レーシング・ドライバーとして一世を風靡したジャン・ルイ。今、過去の記憶を失いつつある父親のため、息子のアントワーヌは彼が愛し続けた女性アンヌを探し出す。自分がジャンにどれほど愛されていたかを知ったアンヌは、2人の思い出の地へと車を走らせ……。

2019年 フランス映画 90分
監督・撮影/クロード・ルルーシュ
出演/アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン
公式URL:http://otokotoonna.jp/
2020年1月31日より、TOHOシネマズシャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開

取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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