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非日常への扉を開く短歌、そして物語の力。九螺ささら『きえもの』

2019.12.04

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〔今月の本〕『きえもの』

『きえもの』
九螺ささら 著/新潮社 1700円

短歌で哲学するというコンセプト、《短歌+コラム+短歌》という今までにない構成、その独特な視点を際立たせる力強い文章で注目を集めた初の著書『神様の住所』で、2018年のBunkamura ドゥマゴ文学賞を受賞した九螺(くら)ささらさん。

九螺ささら

九螺ささら(くら ささら)
神奈川県出身。2009年から独学で短歌を始める。18年、初の著書『神様の住所』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。歌集に『ゆめのほとり鳥』がある。


新作『きえもの』は、食べ物を切り口に、短歌と物語の相互作用によって読者を日常から非日常へと誘う作品集だ。

「私は向田邦子さんのファンなので、“きえもの”という業界用語を知っていましたが、それとは別にこのことばが含む不穏な感じをいいなと思っていて。

小学生のときに見て衝撃を受けた『阿修羅のごとく』は、厳格な父親が存命中に彼の浮気を暴露したという点で、父親に対する向田さんの挑戦だったのでしょうが、私も同じようなことをやってみたいと、そんな気持ちもありました」

本作では、そのモチーフとして夢が大きなウエイトを占めているが、これについては、

「夏目漱石の『夢十夜』じゃないですけど、普段から枕元に携帯電話を置いていて、目覚めたときに夢を記録しています。夢って不思議なもので、よく人は“変な夢を見た”といって笑ったりするけど、その材料はすべて自分自身にあるんです。

おもしろいのは、夢を見ているあいだはそれが夢だと思っていないことで、ならば夢も現実だといってもおかしくないわけで。哲学の本には“宇宙って本当にこの宇宙だけなの?”“1つしかないの?”という問いがあるけれど、誰もそれを証明できない点では、夢と現実の関係も、これに似ていると思います」と話す九螺さん。

日常を起点としながら、気がつけばもとの立ち位置から遠く離れ、見知らぬ光景に連れ出されている——そんな読後感が残る、食べ物をめぐる70の物語の創作は、ご自身にとって新たなチャレンジだったともいう。

「夢の中では自分の頭が夢に乗っ取られているわけですけど、物語を読むこともそれに似ていると思っているんです。傷ついた人が物語によって再生し、現実にいやなことがあっても読んでいるあいだは忘れていられるのは、河合隼雄さんがいうところの物語の効用ですよね。

普通、乗っ取るということばはよい意味では使われませんが、いやな現実を遮断し、非日常の扉を開くパワーを持つ物語には、よい意味で人を乗っ取る強さがあります。書き手と読者の魂が、雑念なしに最も近づくことができる、それが物語の力なんです」

歌人の思考回路。九螺ささらさん、短歌で哲学するとはどういうことでしょうか?>>
表示価格はすべて税抜きです。
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/阿部稔哉

『家庭画報』2019年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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