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つかず離れず、緩やかな人のつながりを描く。荻上直子『川っぺりムコリッタ』

2019.10.02

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〔今月の本〕

荻上直子さん

荻上直子(おぎがみ なおこ)
1972年、千葉県出身。監督作品に『かもめ食堂』『めがね』など多数。近作『彼らが本気で編むときは、』でベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞受賞。本作も映画化に向けて始動中。


高校生のとき、母親に捨てられた山田。


仕事や住居を転々とし、詐欺の廉かどで入った刑務所で30歳の誕生日を迎えた彼は、出所後、働き始めた塩辛工場の社長の紹介で、ムコリッタという不思議な名前のアパートで暮らし始める。

そんなある日、幼い頃に別れた山田の父親が孤独死し、その遺骨を引き取ってもらえないかと役所から連絡が入り......。

「数年前、知人が孤独死したんです。それまでニュースのなかのことと思っていた出来事が、どこででも起こりうると感じたことが、この話を書く始まりでした」と小説『川っぺりムコリッタ』について話す荻上直子さん。

シングルマザーの大家さん、厚かましい隣人、墓石を売り歩く親子など、ムコリッタの住人は皆、どこか訳ありな人たちばかり。

だが、世間から外れた彼らの緩やかなつながりは、誰もがいつ孤立するかわからない現代社会の新たなセイフティネットとも映る。

「血縁関係のない人たちがつかず離れずの距離で一緒にいるというのは『かもめ食堂』の頃からですね。狙っているわけじゃないのにそういうつながりを描いてしまうのは、私自身がそういう関係を好きだからなのでしょう」

虐待、貧困、孤独死......。日本社会が直面している問題に目を向けながら、読後、暗さよりもおかしみや温かさが残るのは、炊きたてのご飯や採れたての野菜のおいしさなど、小さな幸せがリアルに描かれるからだろう。

“人の幸せの基準って、そう大差ない気がするんですよ”と口にする荻上さんはまた、「海外の映画祭では、お客さんが思わぬところで笑ってくれたりするんです。その喜びがあるので何を書いても自分なりのユーモアを入れたくて。今回も深刻になりすぎず、笑える感じにしたいと思っていました」ともいう。

脚本をもとに書き下ろされた、どこか昭和の気配が漂う小説は、読みながらシーンが思い浮かぶように、映像の力を知る監督による鮮やかな風景描写も、本書の大きな魅力だ。

「脚本は映像に委ねられるけれど、小説は事細かに心理描写をしなければならないのが一番の違いですね。映画の場合、役者さんの表情だけでわかることも多いので、説明しすぎるのは格好悪いんです(笑)。

今回は小説を書き込むことで、脚本段階ではわからなかった登場人物の感情を理解できたので、それは私にとって有意義な経験でした」

『川っぺりムコリッタ』


『川っぺりムコリッタ』

荻上直子 著/講談社 1500円
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎

『家庭画報』2019年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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