アート・カルチャー・ホビー

めくるめく映像美で描くベル・エポックのパリ。映画『ディリリとパリの時間旅行』

〔今月のシネマ〕

『ディリリとパリの時間旅行』

(c)2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTEFRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH –MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS –SENATOR FILM PRODUKTION

ナビゲーター・文/福岡伸一

宮崎 駿作品に出てきそうな芯の強い女の子が、新海 誠作品に描かれるような光の粒がきらめく都会で大活躍するアニメ映画なのだが、いずれとも異なる、まったく新しい視覚体験が実現されている。そのことにまず心底驚かされた。

背景は実写のパリの街角の風景、そこにアニメーションが貼り込まれるのだが、その対比が不思議なドールハウス的なジオラマ効果を生み出す。

なによりアニメーションの動きがすばらしい。服装などはフラットに描かれるものの、人物の表情や視線はアニメとは思えないほどいきいきと輝く。

飛び乗ったり飛び降りたりするときの身のこなし方やお辞儀の仕草、そしてダンスの動きなどは、実になめらかで華麗ですらある。

ニューカレドニアから船で密航してパリにやってきた女の子ディリリ。縄跳びが得意でフランス語も流暢。

配達人の美青年オレルと意気投合しパリの観光名所や風物を楽しむ。

その頃、男性支配団(Mâles-MaÎtres)と名乗る謎の秘密結社が次々と少女を誘拐し、パリの街を恐怖に陥れていた。

彼らの目的は、自由に目覚め始めた女性たちの動きを封じ、時代の針を逆戻りさせること。

ふたりは敵の正体と居場所を探るため活動を開始した。しかし、ふとしたオレルの油断から、ディリリは囚われの身になってしまう。

ストーリーはシンプルすぎるくらいシンプル。

勧善懲悪とフェミニズム志向。人種差別や貧困に対する社会的な眼差し。

これらはベタといえばベタすぎるメッセージなのだが、それが陳腐なクリシェ(紋切り型)に陥ってしまうのをとどめるのは、やはり、めくるめく映像美である。

パリの小径や階段を縦横無尽に駆け回る三輪荷車、地下水道を進むスワンボート、敵があやつる黒い高速船、エッフェル塔をかすめて飛ぶ巨大飛行船。

これらのイメージとアクションは実にかっこいい。

そして、活劇の途中で、主人公が出会うことになる当時、パリで活躍していた有名人。芸術家、作家、歌手、科学者たち。

ディリリは彼ら彼女らの名前をいちいちメモ帳に書き留める(あとでこのメモが重要な役割を果たすことになる)。

狂犬病ワクチンを開発したルイ・パスツール、放射線を研究したキュリー夫人、SF小説の基礎を築いたジュール・ヴェルヌがピカソたちと同時代に活躍した人物だったことをあらためて認識させられた。

世紀末からベル・エポックが花開く1900年前後。パリがもっとも光り輝いていた時代のおとぎ話にしばし身と心を委ねることができた。

 

福岡伸一(ふくおか しんいち)
生物学者。『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』など著書多数。ブックマイスターを育てる福岡伸一の知恵の学校も開校中。近著に『ナチュラリスト生命を愛でる人』。など

『ディリリとパリの時間旅行』

舞台はベル・エポックのパリ。ニューカレドニアからパリに渡り、万国博覧会に出演していたディリリは、知り合った配達人のオレルと彼の三輪荷車で街を巡るうちに、男性支配団による少女誘拐事件が頻発していることを知る。パリの文化人、芸術家の助けを得て、ふたりは誘拐事件の解決に挑むが……。

2018年 フランス・ベルギー・ドイツ合作 94分
監督・脚本/ミッシェル・オスロ
声の出演/ブリュネル・シャルル=アンブロンエンゾ・ラツィトナタリー・デセイ
URL:https://child-film.com/dilili/
2019年8月24日より、YEBISU GARDEN CINEMAほか 全国順次公開

取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2019年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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