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作家・堀江敏幸さんが語る、 随想集『傍らにいた人』のこと

2019.02.19

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取材でうかがった大学の研究室は、壁面だけでなく、床にも本の山が。

初めて名前を聞く作家、名前は知っていても、読んだことのない作家の作品も少なくないのに、文章を読んでいると、それぞれの本に会いに行きたくなってしまう。近現代の作家の小説を取り上げた堀江敏幸さんの『傍らにいた人』は、読み手をそんな気持ちにさせてくれる読書案内だ。

知らないことがハードルにならないのは、堀江さんの、作家や作中人物に向ける眼差しや関わり方、その近しさが共感を誘うからだろう。本を開くと日常とは違う時間が流れ始め、1冊の本から次の本へ、その連なりに導かれるように、作家や作中人物と出会うことができる。そんな連続性を楽しむことができる作品がどのように記されたのか、堀江さんにうかがった。




『傍らにいた人』/日経新聞出版社

 

――『傍らにいた人』は、作品から作品へ、連想を通じて書き継がれていきます。連載を始めるに当たって、どのように書こうと考えていたのでしょうか。

とくに構想はなかったのですが、1回ごとの読み切りに近いかたちで、國木田独歩の『忘れえぬ人々』のようなものにしましょうか、という話は打ち合わせの折にしていました。その時点では、なにを扱い、どう展開させていくのか、わかっていませんでした。はっきりしているのは、最初の1冊で生まれた流れにまかせて、それを断ち切らなかったことです。ひとつながりで書いている。ある意味で、長編小説を書いたときと似た感触ですね。全体をひとつの作品として読んでいただければ幸いです。



國木田独歩『武蔵野』(「忘れえぬ人々」を収録)/新潮文庫

――週1回の連載は、締め切りがすぐ来てしまいそうですね。

とてもきつかったですね。大学の仕事もあって、あっというまに締切が来る。毎回、書きながら思い出したことを頼りに、つぎの作品を探すのですが、家のどこかにあるはずの本が見つからなくて諦めたり、図書館で借りて読んでみたら記憶とちがっていたりして、直前で主題を変えることも少なくありませんでした。長篇を読み返す時間がなくなって、連載途中から短篇が多くなりましたね。最初は半年の約束で、本にするためにもう半年ということになったんです。野見山暁治さんには、本当にご無理を言って、毎回すばらしい挿絵を描いていただきました。1年続けられたのは、野見山さんの絵のおかげです。書けば書くだけ、絵を見ることができるわけですからね。

――何かを思い出す、連想するというのは、どんな感じなのでしょうか。

小説や詩を読んでいると、時々黒い影が頭のなかにちらつくんです。あるいは、読み終えたあとに不思議な影が眼の前を過ぎるというか……。ただ、それらは贋の影というか、記憶の誤りをあらわにする意地悪なものだったりもするんです。ふだん、楽しみのために読んでいるときはやり過ごせばいいのですが、こうして文章にしようとすると、影の動きや出所を確かめなければなりません。古い記憶を掘り返しながらの、寄り道ばかりの行程でしたが、それもまた、おもしろい体験でした。
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