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「朝ドラは働く女子に優しい」。敏腕編集者が朝ドラの新しい見方を指南

男社会の新聞業界で長く働き、女性誌の編集長も務めてきたコラムニストの矢部万紀子さん。実は「テレビが好き。朝ドラが大好き」とのこと。そんな矢部さんに、「働く女子」目線で見た朝ドラ論を語っていただきました。働く女子へのエールに満ちているという朝ドラの世界へ、いざ参りましょう。

――独自の視点と軽妙な語り口で人気を博しているコラムニストの矢部万紀子さん。昨年、フリーとなり、現在はWebや雑誌などさまざまなメディアに寄稿されています。まず、経歴を教えてください。
「朝日新聞に入社後に、記者を経て、週刊誌『AERA』の創刊メンバーになりました。その後、新聞に戻りましたが、やはり雑誌が作りたくて『週刊朝日』の編集部への異動を願い出ました。以来、『週刊朝日』『アエラ』に長く在籍し、副編集長、編集長代理を務めました。自分が興味を持った企画を提案して、それが通れば、取材して記事にできる。そんな自由度の高さが、雑誌作りの魅力だと思います」

――『週刊朝日』時代には、松本人志さんの連載を担当し、それが松本さんの著書『遺書』『松本』になってミリオンセラーになりました。
「元来テレビっ子で、テレビが大好きなんです。ドラマもバラエティ番組もお笑いも好き。新聞記者にしても雑誌記者にしても、帰宅が深夜になることが多く、すぐには眠れなくてよく、ビール片手にテレビの深夜番組を観ていました。そんな時、魅かれた1人に松本人志さんがいました。松本さんの連載の担当になれたのは、本当にラッキーでした。松本さんに限らず、自分の“好き”を見つめることは、仕事をする上で大切にしてきたことです」

――2011年に女性誌『いきいき(現・ハルメク)』の編集長になりました。
「お声をかけていただき、思い切って転職しました。シニア女性誌を作った経験はありませんでしたが、2012年2月号の『いきいき』で、初めてファッション特集を掲載したところ、好評で増刷になりました。ファッションのプロから着回し術を学んだり、当時はまだ子供や若者中心という印象が強かった『ユニクロ』や『無印良品』を着こなしに取り入れましょうと提案したり、といった内容でした。なぜこの企画が受けたのかを考えてみると、2011年3月の東日本大震災の後、日本全体が重苦しい雰囲気に包まれていたなか、年が明けて、新しい空気やちょっと心が晴れるようなものを欲していたシニア世代の女性たちが多かったということなのかなと思いました。また定期購読誌ですので、読者の皆さんには積極的にお目にかかるようにし、皆さんの思っていることや考えていること、そして心に寄り添うことを大切にした雑誌作りをしていこうという考えが、私のなかではっきりしました」

――ご自身で「テレビっ子」とおっしゃる矢部さん。朝ドラもお好きだそうですね。
「新聞記者になってからも記者クラブに置いてあるテレビで、ずっと朝ドラを見ていました。朝ドラを『働く女子もの』と意識した最初は、『ちりとてちん』(2007年)でしたが、午前8時スタートに変わった『ゲゲゲの女房』からはほぼすべて、毎回観ています。
『ゲゲゲの女房』は主人公である水木しげる役を演じた向井 理さんが、とにかくカッコよかった。そのカッコよさを支える台詞の数々にも心を打たれました。それは水木さんという人の存在が大前提です。私が仕事で苦戦した時に、向井さんの「くよくよしないで、ほがらかーにやっとればええんです」という台詞を聞いていると、私を励ましてくれているような気持ちになりました。水木さんの優しさと飄々とした感じを向井さんがよく演じていました」

――今春、初めての著書『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)を上梓されました。「働く女子」目線で書かれたのはなぜですか?
「“夫あり子なし”の私は、これまでずっと“働く女子”をしてきました。働き始めたのは30年以上前ですから、ワークとライフをバランスさせようという発想すらない時代でした。働いているなかで得た視点が、私の物事を見る起点になっていることは間違いありません。良い朝ドラを観ると、そこには働く女性へのメッセージがあると感じました。それを改めて文章にしたのがこの本です」

――たとえば、どんなメッセージがあるのでしょうか。
「一番のメッセージは『堂々とせよ』ということだと思います。朝ドラのヒロインたちはみな、何者かになろうとしています。57年間生きてきて、そのうち35年近くは会社員をしてきたという経験から、『堂々と自分でいる』ということは、働くうえでの“初めの一歩”であり、また決め手でもあると思うんです。一方で、堂々としているということはとても難しいことでもあります。今の日本の会社や組織のルールは、やはりまだ男性が決めていることが多い。そのルールのなかで女性が働くというのは大変なことです。だから男性より女性の方が、生きにくさを感じることが多いのではないでしょうか」

――なるほど。よくわかります。ところで、矢部さんの最近のお気に入りの朝ドラは?
「『ひよっこ』が心にしみました。主人公のみね子をはじめ、登場人物はみんな、“勝ちにいかない人”ばかり。でも、努力はする人たちでした。そんな人たち一人ひとりが丁寧に描かれていて、真っ当さが溢れていると拙著にも書きました。このドラマを観ることで、『また、頑張ろう』と思えました。リーマンショック以降『効率よく結果を出す』ということがますます求められています。それが今の日本のテーマであり、会社員が会社から課される目標にもなっていて、みんな息苦しいと思うんです。だから女子としては、朝から“マッチョなおっさん(笑)”が出てくるドラマなんて観たくないですよね。『ひよっこ』にはマッチョな人は出てきません。そして優しく静かに、『ファイト』と語りかけてくれるいいドラマでした」

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