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猫は友達。藤田嗣治が描いた「軽井沢安東美術館」の猫コレクション

2022.12.16

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日本のみならず世界で初めて、藤田嗣治の作品だけを展示する個人美術館として、開館された軽井沢安東美術館。最初期から晩年までの作品が揃った世界有数のコレクションの中で、蒐集の原点となったのは、猫の絵です。自身で猫を飼い、共に暮らし、日々観察していた藤田が描いた猫は、ふとした仕草、ひげ、肉球といった細部まで緻密に描かれています。前回記事はこちら>>

軽井沢安東美術館の猫コレクション

パリの屋根の前の少女と猫
1955年 油彩・キャンバス 35.1×27.4cm


藤田嗣治(ふじた・つぐはる)
1886(明治19)年、東京市牛込区生まれ。日本を代表する画家。「猫」「少女」そして「乳白色の裸婦」などの画題でつとに知られる。二度の世界大戦など激動の時代に翻弄され波瀾に満ちた生涯を送った。1968(昭和43)年、病没。

共に暮らした藤田と猫。猫は最も身近なモデル


軽井沢安東美術館の猫コレクション
猫が待つ部屋
軽井沢安東美術館の展示室5には、猫と少女の絵が掛けられている。安東コレクションは約180点の藤田作品があるが、中でも猫と少女はコレクターの蒐集の原点。一点一点に深い思い入れがある。展示室の右面を向くと、そこには壁一面全て猫、猫、猫。藤田が毛の一本一本まで緻密に描いた様々なポーズの猫たちが、訪問者を迎えてくれる。

藤田嗣治が猫を飼いだしたのは1920年頃だそうです。『巴里の昼と夜』という本の中で

「フト足にからみつく猫があって、不憫に思って家に連れて来て飼ったのが1匹から2匹、2匹から3匹となり、それをモデルの来ぬ暇々に眺め廻し描き始めた」

と、書き遺しています。当時の藤田といえば、代名詞ともいうべき「乳白色の裸婦像」でようやくヨーロッパの画壇で注目されるようになった時期です。

それまでの藤田は1913(大正2)年の渡仏後、翌年に第一次世界大戦が勃発し日本からの送金が滞り、また画業においても自身のスタイルの確立に暗中模索を続けた極貧生活の中にあり、いわばどん底の時代でした。そんな食うや食わずの生活の中でも、藤田は「人の模倣を退け独創独案の画風、ただいい画家になりたい」と固く成功を心に誓い、日々努力を重ねたのです。

乳白色の下地と細やかな線描による裸婦像で、ようやく日の目を見ることになった藤田。苦心惨憺して編み出したマティエール(絵肌)は当時のヨーロッパの人々を感嘆させました。そして、この藤田にしかできない表現は裸婦像だけではなく、実は猫を描くのにも適していたのです。

猫は「裸婦像」や「自画像」に脇役として描かれるようになりました。そして、藤田の水彩画をもとにした1929年刊行の版画集『猫十態』ではその名の通り、10の様々なポーズで主役を張っています。藤田の友達だった猫は、油彩、エッチング、リトグラフなどの技法で終生にわたって描かれ、代表的な画題となりました。

軽井沢安東美術館には茶トラ、黒猫など多くの猫がおり、お行儀良く座ったり、まどろんでいたり、遊んでいたりして来館する方々を待っています。

猫にまつわる「藤田の言葉」


軽井沢安東美術館の猫コレクション東京藝術大学所蔵


私は猫を友達としている。

『地を泳ぐ』1942年

猫を友達にする訳は、
猫は野獣性と家畜性との
二つの性質を持っているので、
そこが面白いと思うのである。


『地を泳ぐ』1942年

私はよく猫を描く。
画室にいる時モデルがないと
猫を描くのである。
サイン代りに猫を描くこともある。


『地を泳ぐ』1942年

不憫に思って家に連れて来て飼ったのが
1匹から2匹、2匹から3匹となり、
それをモデルの来ぬ暇々に眺め廻し
描き始めたのがそもそものようです。


『巴里の昼と夜』1948年

猫に猛獣の面影のある所がよいのである。

『地を泳ぐ』1942年

時には自画像の側に描いてみたり、
或いは裸体画の横にサインみたいに
この猫を描いたりしたことで、
だんだん有名になったのでしょうね。


『巴里の昼と夜』1948年


猫は少女と双璧をなすコレクションの中心


コレクター安東さんにとって心の癒やしとなってきた藤田作品。その蒐集は“かわいい”から始まりました。何とも言えないかわいらしさを内包した猫そして少女たちはコレクション形成の原点です。良い出会いがあるたびに買い求めた絵は一枚また一枚と安東邸の壁面に飾られていきました。猫の定位置は階段そして2階の廊下。絵の前を通るたびに鳴き声が聞こえてきそうな、なごみの空間だったそうです。

安東さんの自宅から軽井沢安東美術館へと居を変えた猫の絵が掛けられているのが、展示室5。こっくりとした色合いの赤い部屋に入ると右手の壁一面に額装された様々な猫の絵を見ることができます。

例を挙げれば「ボールの前で眠る子猫」「眠る親子猫」「黒い猫」「眠る猫」「うずくまる猫」「座る猫」「まどろむ猫」「横たわる猫」「茶色い猫」「眠る子猫」と、『猫十態』全てが揃っています。他にも「正面を向く猫」など印象的な作品ばかりです。

そればかりではありません。同じ部屋に掛けられた少女の絵の膝元や胸元もよくご覧ください。少女と共に猫が描かれた絵もあります。藤田だからこそ描くことができた細部にわたる描写、息遣いまでもが伝わってきそうな線描の細やかさ、猫の気分が感じられるその表情など、どの絵もじっくりと鑑賞したくなるものばかり。これは必見です。

軽井沢安東美術館の猫コレクション

『猫十態』より 茶色い猫
1929年 エッチング・紙 51.0×44.7cm

軽井沢安東美術館の猫コレクション

『猫十態』より 眠る子猫
1929年 エッチング・紙 44.7×51.3cm

『猫十態』は藤田の水彩画をもとに、パリのアポロ社より1929年に出版された版画集である。マカール法と呼ばれるドライポイントやエッチング等を組み合わせた混合技法で100セットが刷られた。その他、若干数の特装版もある。10種のポーズで生き生きと描かれた猫。その柔らかな色合い、細密な猫の毛の表現からは、体温までもが伝わってきそうだ。

Information

軽井沢安東美術館

〒389-0104 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43番地10

  • 藤田嗣治(レオナール・フジタ)の作品だけを展示する初めての個人美術館。コレクター安東泰志の「眼」を通して蒐められた約180点の作品が収蔵されている。蒐集の出発点となった「猫」と「少女」の絵を中心に、初期のものから晩年の宗教画まで広範に作品を網羅し展示するかつてない美術館だ。

【好評発売中】藤田嗣治 安東コレクションの輝き

藤田嗣治 安東コレクションの輝き
エコール・ド・パリの代表的画家・藤田嗣治。この本は軽井沢安東美術館に収蔵されている作品を網羅したいわば“誌上美術館”。かわいい「猫」そして「少女」たち、必見の作品ばかりです。

定価: 本体2,900円+税 ISBN978-4-418-22222-3
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この特集の掲載号
『家庭画報』2023年1月号



『家庭画報』2023年1月号


綴じ込み付録 藤田嗣治(レオナール・フジタ) 猫のマルチクロス


『家庭画報』2023年1月号(通常サイズ版・2022年12月1日発売)には、【綴じ込み付録 藤田嗣治(レオナール・フジタ) 猫のマルチクロス】が付いています。

※マルチクロスは2種類の絵柄のうちどちらか1枚が付属します。絵柄はお選びいただけません。
※プレミアムライト版には付きません。
撮影/本誌・坂本正行企画協力/軽井沢安東美術館、キュレイターズ ©Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4903
『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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