アート・カルチャー・ホビー

世界的ピアニスト・内田光子さんが満を持してリリースした『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲』

〔今月の音楽〕

妥協のない生き方

内田光子さん

© Justin Pumfrey

内田光子は、現状、世界トップクラスのクラシックピアニストとして認められる唯一の日本人といえる。

内田が国際的キャリアを築いた所以は、優れた音楽性に加え、1970年のショパンコンクール入賞後もロンドンを拠点としたことにあるだろう。

景気のよい日本に戻らず、クラシック市場の中心地での活動を継続したことは、“世界のウチダ”の地位を確かなものにした。

そんな彼女が73歳の円熟期を迎え、6年ぶりに録音したのは、ベートーヴェンの『ディアベッリ変奏曲』。ベートーヴェンは当初、ウィーンの出版商から提案されたこの主題を“靴屋の皮の切れ端”と揶揄したが、最終的には創作意欲の赴くまま33の変奏を書き、傑作に仕立てた。

内田はかねて、この作品を弾かないまま人生を終えるのは嫌だと思っていたという。しかし70歳を過ぎればこれだけ複雑な楽曲を学ぶのは困難と考え、10年ほど演奏会で取り上げていた。

そして満を持して録音したのが今回の演奏。確信に満ちたタッチで、楽曲の美点と起伏をヴィヴィッドに描く。妥協のない生き方が、技術と内面の円熟が両立するタイミングでの録音を実現させた。

内田光子(うちだ・みつこ)
1948年静岡県出身。12歳で渡欧し、ウィーン音楽院で学んだ。1970年のショパンコンクール入賞後一時帰国するも、再び渡欧。1972年よりロンドンを拠点とし、2009年には大英帝国勲章“デイム”の称号を授与された。2度のグラミー賞を受賞。

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内田光子『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲』

『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲』

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円熟期を迎えた内田光子が、ベートーヴェン晩年の傑作であり、変奏曲作品の最高峰ともいわれる『ディアベッリ変奏曲』をついに収録。近年コンサートでたびたび取り上げており、昨年の国内リサイタルでの演奏も喝采を受けた。知性と感性のバランスがとれた演奏が、作品の美点を浮き彫りにする。

内田光子&ドロテア・レシュマン
『シューマン:リーダークライス、女の愛と生涯/ベルク:初期の7つの歌』

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内田光子が日本人初となる2度目のグラミー賞を受賞したアルバム。レシュマンは各地の歌劇場からオファーの絶えない現代最高のソプラノの一人で、ドイツ・リートを得意とする。彼女の歌声に、内田の情感豊かなピアノが寄り添う。

表示価格はすべて税込みです。

構成・文/高坂はる香

『家庭画報』2022年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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