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光源氏が愛する紫の上のために選んだ色【葡萄色(えびいろ)】京都のいろ・師走 第23回

2021.12.01

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〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【葡萄色】
光源氏が愛する紫の上のために選んだ色


文・吉岡更紗

2021年も残すところあと1か月となりました。例年よりは暖かい印象ですが、朝晩がとても冷え込みはじめ、京都らしい冬を迎えています。師走という名のとおり、慌ただしい日々が続いていますが、今回はそれを一時忘れられるような優雅な色をご紹介したいと思います。


この時期には、お世話になった方々へお歳暮を送る習慣がありますが、起源には諸説あるようです。その原点となるような場面が、『源氏物語』「玉鬘」の帖に描かれています。

須磨や明石での流浪の生活から京にもどった若き光源氏は、六条院という住まいを建て、華麗な生活を送っています。この豪邸は大きく四季を象徴するように分けられていて、東南は春で光源氏が紫の上、明石の姫君と暮らしています。南西は秋として秋好中宮が、北東は夏で花散里が暮らし、西北には冬を表す佇まいで明石の上が住まいとしていました。

光源氏のような位の高い男性には、「御しつらひのこと」といわれる、新年を迎える前にゆかりのある女性に調度品や晴れ着を送る、今日のお歳暮のような習わしがありました。「衣配り(きぬくばり)」と呼ばれ、さまざまな色合いや布の様子が詳細に記された大変華やかな場面です。

写真/小林庸浩

光源氏は一緒に住まう紫の上とともに、数人の女性のために布や衣装を選んでいます。光源氏が他の女性のために選ぶさまをみて、それぞれの女性がどのような容貌で、どのような人柄なのかを想像してしまった紫の上に対し、源氏は自分に似合うものはどれだと思うのか?と尋ねます。紫の上は、鏡を見ただけでは、どうして決められましょうかと恥ずかしそうに答えて、選ぶのを光源氏に委ねるのです。

紫の上の衣装。葡萄染と今様色。写真/小林庸浩

そんな紫の上のために光源氏が選んだのは、「紅梅のいと紋浮きたる葡萄(えび)染の御小袿(こうちき)、今様色のいとすぐれたる(略)」という組み合わせです。紅梅を思わせるような文様の生地を葡萄染に染めたものをまず選んでいます。葡萄染と書いて「えびぞめ」といい、それは「葡萄葛(えびかずら)」のことを指しています。葡萄葛とは山葡萄(やまぶどう)の古名であり、「葡萄色」はその山葡萄の実が熟したような、やや黒ずんだ紫色を表しています。

写真/PIXTA

かつてはその熟した実の絞り汁でも染まるという説もあったそうですが、実際には紫根をたっぷり使って揉みだした染液に酢を多く入れて、赤みの紫になるように染めている色です。その小袿には、今様色という紅花で濃く染めた赤色を組み合わせました。今様色とは流行色という意味であり、平安時代の女性が大変好んだ色だったといわれています。

その後それぞれの女性の雰囲気に合った衣装を次々と選んでいく光源氏ですが、やはり最愛の女性である紫の上には、もっとも高価で気品高い色を選んでいます。贈られた衣装は、元日に着るようにという手紙が添えられて、「玉鬘」の後の「初音」の帖には、実際に六条院に住まう女性を訪ねる場面が描かれています。その様子は大変に華やかなものであったと想像しています。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka


「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/
【好評発売中】


更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

協力/紫紅社
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