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冷たく澄んだ空気が染め上げる、晩秋の美しい色【紅葉色】京都のいろ・霜月 第22回

〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【紅葉色】
冷たく澄んだ空気が染め上げる、晩秋の美しい色

文・吉岡更紗

毎朝、工房まで通う道すがら、東山の風景を見るのを楽しみにしています。この季節になると早朝の空気は日に日に冷たくなり、より澄んでいくように感じます。その寒さが、東山の樹々を次第に黄色や赤に染めていくのが遠目にもわかります。

工房に植えられている黄檗(きはだ)の木はすでに葉が落葉し、隣にある胡桃の木は、大きく広げた葉が黄色くなりかけてきました。いずれこの葉がすべて落ちると、本格的な冬の到来です。

工房にある胡桃の木。写真/吉岡更紗

葉の色が黄色や赤に変化することを「こうよう」または「もみじ」と呼びますが、漢字では楓や櫨(はぜ)の木など赤くなるものを「紅葉」、銀杏のように黄色くなるものを「黄葉」と表します。日本ではその葉の移り変わるさまを詠んだ歌が多く遺されており、奈良時代から平安時代初頭に編纂された『万葉集』にはその「もみぢ(じ)」や「もみぢ(じ)ば」に関する歌が100首以上収められています。

紅葉。写真/紫紅社

それらを見ていると、「明日香川(あすかがは)黄葉(もみぢば)流る葛城(かづらき)の山の木(こ)の葉は今し散るらし」(作者未詳『万葉集』巻十)、「経(たて)もなく緯(ぬき)も定めず娘子(おとめ)らが織る黄葉に霜な降りそね」(大津皇子『万葉集』巻八)、などと「もみじ」を表す言葉に「黄葉」の漢字が当てられています。それは、当時の日本の文化が中国の影響を大きく受けていたためであるといわれています。日本には紅葉する楓や櫨の木が生えていましたが、気候の違う中国では黄色く変化する木のほうが多く、それらを「黄葉」と表していたので、日本でもそれに倣ったのではないでしょうか。

紅葉の襲。写真/小林庸浩

平安時代に入ると和様文化が浸透し、日本独自の色彩感が芽生え、やがて「紅葉」も使われるようになっていきました。衣装の色も季節を表したものを選ぶことが美意識の現れとする時代となり、秋が訪れるころには赤や黄を中心とした襲(かさね)の色を纏っていました。それらの衣装は茜や蘇芳を使った赤や、柘榴や楊梅(やまもも)を使って染められた黄色で表しました。

『古今和歌集』には「霜のたて露のぬきこそよわからし山の錦の織ればかつ散る」(藤原関雄)や、「龍田川もみぢみだれて流るめりわたらば錦なかやたえなむ」(よみ人しらず)という歌が遺されています。紅葉した葉が霜や露に濡れる様子や、川に流れるさまが錦のように美しいという表現が多く見られます。緑、黄色、赤など少しずつ変化をとげる葉が幾重にも重なる様子を、多彩な色が織り込まれた絹織物に例えるようになりました。

紅葉の襲。写真/小林庸浩

透明感のある紅葉の様子を眺められる期間はそれほど長くはありませんが、当時の人々は「朽葉色」「枯色」と名づけて、その後の色も楽しんだそうです。わずかな季節の移ろいを楽しめる豊かな色彩感は素晴らしいと思います。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka

「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/

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吉岡幸雄の色百話 男達の色彩
吉岡幸雄(著)
更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

協力/紫紅社

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