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『ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス』。「運動とは何か?」をユニークに考える

〔今月の本/頭と体を整える〕
『ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス』ヤマザキマリ 著

ヤマザキマリさん

ヤマザキマリ
漫画家・文筆家。1967年東京都生まれ。1984年渡伊し、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で学ぶ。古代と近代のオリンピックを題材とした『オリンピア・キュクロス』を『グランドジャンプ』(集英社)にて連載中。

運動とは何かを俯瞰で考える“想像力の運動不足”を補う対談集

11人のさまざまな専門家と語り合うヤマザキマリ氏の初対談集のテーマは、意外にも「運動」だ。

「以前から、日本のニュース番組のほぼ3分の1がスポーツに費やされていることに疑問を感じていました。イタリア人の夫も不思議に思うようで理由を尋ねられるのですが、私にも答えられない。そこで、運動に対する日本人の姿勢や必然性、運動がもつ力を分析したいという気持ちから漫画『オリンピア・キュクロス』を始めました。その分析をより深めるために、知人や友人、そして以前から興味をもっていた人たちと行った対話をまとめたのが、この対談集です」

対談相手は、プロレスラーの棚橋弘至選手を除き、学者やシンガー、同業の漫画家など、運動以外の専門家ばかり。その理由は「運動を“俯瞰”して考えたかった」からだとヤマザキ氏。

氏の見識とユーモアが専門家の深い知識をさまざまな角度から引き出し、対話を通じて、思考すること、歌うこと、演じることなども“運動”であるという結論が浮かび上がっていく。

特に歌舞伎俳優の中村勘九郎丈との対話では、父・勘三郎丈から「歌舞伎はプロレスでやれよ」と常々いわれていたことが語られ、前出の棚橋氏との対話も絡み合い、歌舞伎とプロレスとの意外な共通点が明かされる。

対話中のヤマザキ氏と勘九郎丈の興奮が紙面から立ち上り、読者にも伝わってくる。

「その共通点とは、“簡単にできることを難しそうにやり、難しいことを簡単そうに見せる”ということです。現在のいわゆる運動は勝ち負けを軸にしていますが、人々に生きる力を与えるのは、結果に至るまでの過程であり、ときにそれは演出された創造物であっても同じことがいえるのではないかと思うに至りました」

対談集の最後を飾るのは、2019年に亡くなった兼高かおる氏だ。

「自分に対してある種の負荷をかけて行動し、葛藤や格闘を経て帰宅するという意味で、旅も運動といえます。兼高さんとは対談後に“今度一緒に旅をしましょう”と語り合っていたので、お亡くなりになってとても残念です」

行動が制限されている現在、体だけでなく、想像力まで運動不足となりがちな日々をどう過ごせばよいだろうか。アドバイスをいただいた。

「現在を人生で二度とないようなチャンスととらえ、自分の内面を掘り下げることにエネルギーを費やしてはいかがでしょう。インナートリップも、旅のひとつの形です。意識的に想像力のスイッチを押して、これまで接してこなかったジャンルの映画や音楽、本に触れてみる。そこで得られた知見は、後で必ず役立つと思います」

『ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス』

『ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス』ヤマザキマリ 著 集英社 装幀/小林 満(ジュニアロイド)

養老孟司、竹内まりや、中野信子、釈 徹宗、棚橋弘至、パトリック・ハーラン、中村勘九郎、平田オリザ、萩尾望都、内田 樹、兼高かおるとの対談をまとめた著者初の対談集。縦横無尽に広がる対話の妙が楽しめる。

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構成・文/安藤菜穂子 撮影/本誌・中島里小梨(本)

『家庭画報』2021年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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