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松田青子さんに聞く、小説・翻訳との向き合い方と自選の書3冊

2021.05.18

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第10回 松田青子さん
〔後編〕

小説を書くということ~作家が語る、書くこと、読むこと SNSやブログを通じて、誰もが書くことができるこの時代、小説を書くとはどういうことなのか。小説家はどんなことを考えながら、小説を書き、読んでいるのか。作家の方々に、それぞれの小説作法を尋ねます。連載一覧はこちら>>
〔前編〕海外でも注目される作家・松田青子さんが語る、小説のつくり方と最新短編集>>

松田青子(まつだあおこ)さん

たたみかけるような勢いのある文体。第六感まで含めて、自分のセンサーが反応した“もの”や“こと”を腑に落ちる言葉に置き換えた、切れ味の鋭い文章。ジェンダーギャップだけでなく、自身が覚えた諸々の違和感を端緒とする松田青子さんの小説は、TIME誌の2020年のベスト10に入るなど、今、海外でも注目を集めている。


女性を描いた11の短編集『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』は、男女や国を問わず、社会の現状に違和感を覚える人にとって、納得や共感できるものだろう。読んでいると、いろいろ気づかされるだけでなく、自分の考えていることの言語化を促してくれる。松田さんの小説には、そんな作用もあると思う。


私がクレジットカードを持っていることを、夫は知らなかった。
来週からリモートワークになる。
水曜日の夜、帰ってきた夫がそう言った。夫はうれしそうだった。
この家にこの人と閉じ込められる。
考えただけで、喉がぎゅううと締めつけられ、実際に首を絞められているのかと錯覚した。そうされてもおかしくない、と自分が思ってるのがわかった。
週末に入ったら終わりだった。
夫になった人はクレジットカードを家族で共有しようと言った。家族になったんだからと。
私は同意し、自分が持っているカードのことを話そうとした。
でも、いつかSNSで偶然目にした、ママアカウントをやっている知らない女の人の言葉をふと思い出した。
結婚する時、もしもの時に逃げられるお金を隠しておいたほうがいい、とその人は母親に言われたと書いていた。


「誰のものでもない帽子」 『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』より


同じ社会に生きているだけで、私たちはゆるくつながっている


――松田さんは小説で仕事やお金のことを仔細に描きますが、それは就職氷河期世代だったこともどこかで関係しているのでしょうか。

自分が読んでいる範囲でですけど、ある時期まで、女性の仕事やお金のことをしっかり書いている小説ってそんなになかった気がしていて。でも、私たちは働かなければ生きていけないし、仕事は生活に組み込まれているものだったので、そこは細かく書きたいんです。

あと、お金のことが書かれていない作品ってフワッとしてしまうというか。ドラマなどで自分と同世代や若い人が、働き始めたばかりなのに素敵なインテリアのいい部屋に住んでいたりすると冷めてしまうし、ちょっと違う気がしてしまう。そこは自分が見てきたものや良心に則って書かなければ、と思っています。

――作品には、いろいろなタイプの働く女性が登場します。

働いていた場所で、特に誰かと仲良くなることがなかったとしても、あとで思い返して面白かった人とか、いろいろ断片を覚えているものです。

若いときは、職場で上の世代とはどうしてもつながりきれないし、お互いまるで違うと思っていても、“あのとき、あの人が言っていたのはこういうことだったのか”と、後になってわかることはすごく多いと思うし、それも一つの大切なつながりの思い出だと思います。

「天使と電子」も「クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る」も、後になって思い出した人とつながることができたらいいのに、という話です。つながるって、何か特別なことだったり、ものすごく仲が良くないといけないということもなくて、同じ社会に生きているだけでも、私たちはもうゆるくつながっていると思うんです。

そのゆるいつながりのグラデーションを書きたかった。収録作品は奇想というか、ちょっと非現実的な設定の話も多いので、非現実的なことが起こらない状況で、でも同じことをやろうとしたのが「誰のものでもない帽子」です。

――松田さんの小説は、場や空間の立ち上げ方が見事で、『おばちゃんたちのいるところ』も、読者を“あちら”と“こちら”の世界に自在に誘います。

『おばちゃんたちのいるところ』は、一人称から三人称に飛んだりするので、アメリカの文芸メディアのインタビューで“何を書いているときがいちばんやりやすいのか”と尋ねられたりしましたが、自分が何をやろうとしているのかを考えたとき、誰(何)が語り手であるべきか、人称は何が合うかは直感で判断しているので、その選択にはさほど苦労はないんです。
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