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女優 サヘル・ローズさんが語る、母 フローラ・ジャスミンさん。苦労と困難を乗り越えて、娘を守り抜いた母

わたしの人生の灯台 母の肖像 第2回(全3回) 誰にでも“お母さん”がいます。当たり前でありながら、かけがえのない特別な存在。どんなかたちであれ、母親ほど私たちに大きな愛情を注ぎ、影響を与える人はいないでしょう。“母の愛”が人生の大きな道しるべとなった3人のかたの心に響く物語をお届けします。前回の記事はこちら>>

サヘル・ローズさん(女優)が語る 母・フローラ・ジャスミンさん

血のつながりがなくても、それ以上の深い親子関係を築くことができる ── 。母国を捨ててまで、大きな愛情をサヘルさんに注ぎ、それを示したフローラさん。戦場と化した国に生まれ、“愛に生かされた”と語るサヘルさんは、母との約束を果たすため、大きな一歩を踏み出しました。

サヘル・ローズさん

サヘル・ローズさん
1985年、イラン生まれ。女優、タレント。8歳のときに養母フローラ・ジャスミンさんと来日。高校時代にJ-WAVEのレポーターを務め、その後、テレビ、映画、舞台へと活動の場を広げる。国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。「サヘル・ローズ」という名は、母・フローラさんが「砂漠に咲くバラ」のように、強く凜と生きてほしいという願いを込めてつけたもの。園芸高校を卒業したサヘルさんは、野菜や花を育てるのが得意だ。

「母からは愛以上の深い絆をもらいました」── サヘル・ローズ

サヘル・ローズさんと 母・フローラ・ジャスミンさん

養護施設から引き取られた頃のサヘルさんとフローラさん。会った瞬間、サヘルさんにmadar(お母さん)と呼ばれたフローラさんは、そのひと言で自分の娘として彼女を受け入れる覚悟を決めたのだという。

フローラ・ジャスミンさん
イランの裕福な家庭に生まれ、テヘラン大学で心理学の修士号を取得。大学院生時代にサヘルさんを引き取ったことで、一時期両親と絶縁状態になり、1993年にサヘルさんを連れて来日する。当初、イランの絨毯を織る仕事などで生計を立てながら娘を育て上げた。

養護施設から、後に“母”となる女性に引き取られる

1989年、イラン・イラク戦争の最中、故郷の村が戦場と化し、私は4歳で孤児になりました。その後、しばらく養護施設で暮らした私は、当時、大学院生でボランティア活動をしていた女性に出会います。“私の子どもになる?”彼女にそう聞かれた私は、すぐにうなずきました。この“母”に引き取られ、共に暮らし始めたのは、私が7歳のときのことです。

当時、イランでは養子縁組をするのに3つのルールがありました。結婚していること、裕福なこと、そして子どもを授かれないこと。母は結婚はしていたし、資産家の娘でお金に不自由はなかったけれど、子どもを産める健康な体でした。でも、私を引き取るために、自分の体にメスを入れたんです。最初に出会ったとき、私が彼女を“madar(お母さん)”と呼んだことを真摯に受け止め、不妊手術を受けたことは、私が18歳になったとき、初めて母から知らされました。

実は、12歳のときにも真実の告知を受けています。7歳になるまで3年間、施設で過ごしていたのだから、普通に考えれば当時の記憶はあるはずです。ただ8歳のときに日本に来て、言葉もわからない異国の地で、ふたりで必死に生きていたから、本当の親子じゃないことを、私は記憶のどこかに押しやっていたのでしょう。

当時はお金がなくて外食など滅多にしませんでしたが、私が初潮を迎えたお祝いにレストランに連れて行ってもらったとき、母から“覚えているかもしれないけれど、私はサヘルの本当のお母さんじゃないんだよ”といわれました。その瞬間、食べていたデザートの味が消え、母いわく数日間、私は泣き続けたそうです。今は母のことを理解できるけれど、幼児期の記憶を抑えていた当時の私は、どう受け止めればよいかわからなかったのだと思います。

施設を出たあの日、母は私のためにきれいなドレスを用意してくれたのですが、靴を忘れていました。それで靴を職員さんに借りたのですが、母の運転する車の中で、私はその靴を窓から投げ捨てたんです。なぜそんなことをしたのかわからないけれど、施設での私は今日でおしまい、新しい人生が始まると思ったのかもしれません。子どもの行動は、無邪気に見えても一つ一つ意味があると思います。

チャイナ服

サヘルさんを引き取る以前、仕事でシンガポールと行き来していたフローラさん。養護施設でサヘルさんの容姿を見て、きっと似合うだろうとお土産に持ち帰ったチャイナ服。

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