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都の春をやさしく彩る【桜色(さくらいろ)】京都のいろ・卯月 第7回

〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【桜色(さくらいろ)】
都の春をやさしく彩る

文・吉岡更紗

今年は暖かくなるのがとても早く、4月に入り夏のような日差しとなる日も続きそうです。
桜の開花も例年より早く、京都では3月末には満開となりました。その後、少しずつ葉が出ている葉桜となった姿も、可憐な印象です。

3月末日の夜、お花見に出かけたところ、少し曇り空でしたが満月がほんのりと見えて、大変美しかったのが印象に残っています。例年いつ頃咲くだろうか、咲き具合はどうだろうか、と気になるところですが、以前桜の花は、寒暖の気候の関係というよりも、満月に向けて咲くと聞いたことがあり、その通りなのかもしれないと思いました。

桜の名所は、京都にはたくさんありますが、私が好きなのは鴨川沿いや冷泉通、白川通などの疎水沿いに咲く桜です。お散歩がてらに歩いていくと、桜の木が並ぶ中に時折、柳の木があることに気づきます。

撮影/伊藤 信

桜の咲く頃は、さまざまな植物の木が芽吹く頃と重なります。柳は、桜より早く芽吹いていますが、桜の開花時には、少し葉が大きくなっています。透明感のあるたおやかな柳の葉と桜との調和は、言葉にできないほどの美しさを感じます。

それは『古今和歌集』におさめられている、素性法師が詠んだ「見わたせば 柳桜をこきまぜて みやこぞ春の錦なりける」という歌のような、桜の薄紅色と柳のやさしい緑のかさなりがまるで織物のように美しいという情景です。

撮影/伊藤 信

日本人が花というと、桜を思いめぐらすことがほとんどですが、第3回の「紅梅色」でも触れたとおり、奈良時代までは花といえば梅が主流でした。平安時代に都が京都に遷された際も、御所の紫宸殿には「左近の梅、右近の橘」が植えられていました。そのあと、その梅が枯れてしまったため、仁明天皇の在位時(833~850)に、吉野山から桜が移されて、「左近の桜」となったのです。それ以降、宮中の人々をはじめ、さまざまな方々に桜が親しまれるようになったのだといわれています。

可憐に咲く桜の花色は、現代では桜の樹木を使い染められることもあるようですが、私どもの工房では、古法にのっとり紅花や蘇芳で染めるのがふさわしいと考えています。古来、日本で染められていた書物や記録を見ていると、紅花や蘇芳で染め、そこに透け感のある白をかさねて桜色をあらわすという記述が多く見受けられるためです。

写真/小林庸浩

桜をあらわすかさね色の組み合わせを調べると、ほかのかさね色より断然多く、25種類以上あるといわれています。この当時の桜はソメイヨシノではなく、山桜が中心ですので、先に紫とも赤ともいえるような葉を伸ばし、それから白っぽい薄紅色の花を咲かせます。

写真/紫紅社

この当時の桜のかさねには、時折紫系統の色が使われているものがありますが、これは微妙な葉の色の変化をとらえているということでもあり、その当時の方々の色の移り変わりを繊細に見分ける感性は本当に素晴らしいと感動します。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka

「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/

【好評発売中】
吉岡幸雄の色百話 男達の色彩
吉岡幸雄(著)
更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

特別展「日本の色 吉岡幸雄の仕事と蒐集」
染色史の研究者でもあった吉岡幸雄さんは、各地に伝わる染料・素材・技術を訪ねて、その保存と復興に努め、社寺の祭祀、古典文学などにみる色彩や装束の再現・復元にも力を尽くしました。本展では、美を憧憬し本質を見極める眼、そしてあくなき探求心によって成し遂げられた仕事と蒐集の軌跡をたどります。
細見美術館
京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
会期:~2021年5月9日(日)

協力/紫紅社

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