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平安時代の悲恋を今に伝える【朱華色(はねずいろ)】京都のいろ・弥生 第6回

2021.03.17

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〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【朱華色(はねずいろ)】
平安時代の悲恋を今に伝える


文・吉岡更紗

3月も後半に差し掛かりました。第2回の連載でもふれたとおり、奈良東大寺では3月1日から14日まで二月堂で修二会(しゅにえ。お水取りとも呼ばれる)が執り行われます。本年は新型コロナウイルス対策を考慮して、厳戒態勢の中での厳粛な行となりました。15日に満行を迎えましたが、近畿地方ではこの修二会が終わると春が来る、といわれています。実際に上着がいらないような春の暖かさが日に日に感じられる頃となりました。


今回は、「朱華色(はねずいろ)」についてご紹介をしたいと思います。京都の山科にある随心院では、毎年3月の最終日曜日に「はねず踊り」が行われます。残念ながら、新型コロナウイルスの影響により昨年に続いて本年も中止が発表されましたが、花笠と薄紅色の小袖をまとった女の子たちがわらべ唄に合わせて躍る行事です。わらべ唄は、平安時代前期、随心院に暮らした小野小町に求婚した深草少将の「百夜通い」の伝説が元となっています。



随心院の境内にある、小野小町の歌を刻んだ石碑。撮影/伊藤 信

当時の男女の恋愛は、手紙や和歌のやり取りを行った後に、ようやく逢うことが許されていました。絶世の美女といわれる小野小町に恋愛感情をもった深草少将も、すぐに逢うことができませんでした。100日通ったら会うと小町に言われ、深草から随心院まで毎夜通いましたが、99日目で病に倒れ、代理の人に代わってもらいました。そのことが小町に知られてしまい、2人は逢うことが叶わなかったといいます。内容には諸説ありますが、この2人の悲恋がはねず踊りのわらべ唄のベースになっています。



はねず踊りの様子。撮影/下郷和郎(芳賀ライブラリー/アイノア)

踊りの中で、女子たちが纏っている衣装の色は、「朱華色」と言われています。随心院の境内には「小野梅園」とよばれる梅園があり、約200本もの紅梅が植えられています。3月中旬以降に咲く遅咲きの梅の中に白みをおびた淡い紅色の花をつける木があり、それは「はねず梅」と呼ばれているそうです。



小野梅園の「はねず梅」。撮影/伊藤 信

朱華色は、必ずしも梅の花色のことをあらわすと決まっていたわけではなかったようですが、『万葉集』には
「思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我(あ)が心かも」
「はねず色のうつろひやすき心あれば年をぞ来経る言(こと)は絶えずて」
と、うつろいやすい人の心をうたった歌によく登場します。



撮影/伊藤 信

紅梅が日本にもたらされたのは、平安時代以降とされていますし、別の歌には
「夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか」
と、夏に咲く花のことをうたっていることもあり、春から夏にかけて咲く庭梅の古名にまつわる色とも、柘榴(ざくろ)の花の色ともいわれています。

いずれにしても、「朱華色」は梔子と紅花をかけあわせて染めた黄赤で、どちらも他の染料に比べると退色しやすいもので、うつろいやすい人の心になぞらえた、せつない色でもあるのです。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka



「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/
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更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。






特別展「日本の色 吉岡幸雄の仕事と蒐集」

染色史の研究者でもあった吉岡幸雄さんは、各地に伝わる染料・素材・技術を訪ねて、その保存と復興に努め、社寺の祭祀、古典文学などにみる色彩や装束の再現・復元にも力を尽くしました。本展では、美を憧憬し本質を見極める眼、そしてあくなき探求心によって成し遂げられた仕事と蒐集の軌跡をたどります。

細見美術館
京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
会期:~2021年5月9日(日)
協力/紫紅社
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