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母と息子の視点で描く、家族の一代記『ははのれんあい』窪美澄さんへインタビュー

2021.04.05

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〔今月の本/小説〕
『ははのれんあい』窪 美澄 著

窪 美澄さん

窪 美澄
1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。同作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞受賞。『トリニティ』『私は女になりたい』など著書多数。

結婚、出産、離婚を経て、大切なものを守るために腹を据えて生きる由紀子。そんな母を支えようと、みずから双子の弟を世話する長男の智晴(ちはる)。


窪 美澄さんの新作『ははのれんあい』は、母と長男を軸に、今を懸命に生きる家族の姿やその変遷が描かれた小説だ。

「家族の一代記を書いてみたいと思ったのが始まりでしたが、ただ、私が書く小説なので、両親が揃っていて子どもがふたりいるというような家族はちょっと違うかなあと。途中で人が欠けたり、欠けた誰かから新たに何かが始まるとか、そのときどきに応じて有機的にかたちを変えてゆく、そんな家族を書きたかったんです」と、窪さん。

離婚後、3人の息子を育てるシングルマザーの由紀子。小説では、そんな彼女の家族だけでなく、別れた夫の新しい家庭の事情、離れて暮らす父に対して智晴が抱いている複雑な思い、そして変化するそれぞれの関係性に、作家の視線が等しく向けられる。

「物語ってきっぱり悪役がいるほうが気持ちいいんですけど(笑)、家族のなかでこの人だけが悪人ということってなかなかないですよね。私は離婚家庭に育っていて、父が商売に失敗して自己破産しているので、小さい頃は父を悪役と思っていましたけど、年を重ねると、決して父は悪役なだけではなかったと思うことが増えてきて。家族は皆それぞれの立場で自分の考えを訴えているだけなので、それをジャッジする必要などないだろうと、今はそう思っています」

仕事の描写については定評のある窪さんだが、本作でも、出産後の由紀子が就いた駅の売店での働きぶりが、目に浮かぶリアルさで描かれる。

「離婚後、私は父についたのですが、母は自活するために駅の売店で働いていたんです。お釣りの揃え方、暗算の練習、店がどのくらいの狭さかなど、今回は母に取材をしました。母は正社員になって定年まで働き、自分でマンションも買っているんです」

仕事同様、家族の生活の基盤となる経済状況もその詳細が伝わってくるが、「たとえばいい生活をしているなら、それがどのように成立しているか、そこを飛ばした小説はどこか噓っぽいというか。家の経済状況がどうなっているか、お金のことを書くのは大事だと思っていて。今回はいつも以上にそれをしっかり書いたかもしれません」

育った家族や働きながら綱渡りで子育てしていたことなど、窪さん自身の経験も少なからず投影された本作。

「別に私小説じゃなくても、自分の価値観や考えが滲み出てしまう。小説ってそういうものなのだと思います」

『ははのれんあい』

『ははのれんあい』窪 美澄 著/角川書店

両親が始めた小さな縫製工場で働く智久と結婚、手伝い始めたミシンの仕事にもなじんでいた由紀子。だが、長男の智晴(ちはる)も生まれ、3人の新しい暮らしに希望を抱いていた矢先に家業が傾き、智久は転職せざるを得なくなる。

生活のために智晴を預け、自分も働きだした頃から、何かがすれ違い始めるふたり。双子の出産、夫の浮気、義母の死、そして離婚。

シングルマザーとなった由紀子を支えようと、高校生になった智晴は率先して弟たちを世話する。父親に会いたがる弟たちに対し、母親の奮闘を見てきた智晴は心中、弟にも父親にも複雑な思いを抱え......。

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取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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