カルチャー&ホビー

「自分を大事にすることは、みんなを大事にすること」―理学博士・中村桂子さん

2020.06.18

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不安な時代を乗り切るメッセージ「心をつなぐ言葉」 第2回(全7回) 当たり前だと思っていた日常や、世界の情勢はどうなっていくのか―。家庭画報ではそんな時代を生き抜くため、“心をつなぐ”をテーマに、そのヒントを探しました。見えてきた一つのキーワード、それは「思いやり」です。識者のかた、それぞれが考える、私たち一人一人に求められる「思いやり」を紐解いていきます。前回の記事はこちら>>

「1人1人の力ってすごいのです。
思いやりこそがよりよい社会をつくります」
──JT生命誌研究館名誉館長・理学博士
中村桂子さん


中村桂子さん


〔人間も多様な生きものの1つ。みんなの中で生きている〕地球上の生物の歴史と関係を描いた「生命誌絵巻」。扇形の縁に並ぶ人間も含めたすべての生きものは、生命誕生を示す扇の要から等しく38億年の距離にある。原案/中村桂子 協力/団 まりな 絵/橋本律子 提供/JT生命誌研究館

自分を大事にすることは、みんなを大事にすること


石鹼で手をていねいに洗っていらっしゃいますか。幼稚園で教えていただいたことを思い出しながら洗うと、とても気持ちがよいので、今私は手洗いにはまっています。

私たちは生きものであり、清潔にしているつもりでもまわりにはたくさんの病原体がいますので手洗いは大事です。

中村桂子さん

JT生命誌研究館名誉館長・理学博士
中村桂子(なかむら・けいこ)さん

1936年生まれ。理学博士。東京大学理学部化学科卒業、同大学院生物化学修了。三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授などを経て93年JT生命誌研究館副館長、2002年同館長、20年より現職。

でも最近は抗菌グッズが増え、それを使っていれば大丈夫と思っている方が増えているような気がします。

実は、ここに問題があります。新型コロナウイルス感染拡大でわかったように、自然界には未知の病原体がたくさんいるのです。この時、1番大事なのは免疫力なのですが、抗菌グッズに頼っているとその力が育ちません。

現代社会は、専門家が次々と便利な道具を開発し、ボタンを押せばなんでもでき、誰かが守ってくれるようになっています。便利ですが、そのために自分で考え、自分の体は自分で守るのが基本だということが忘れられていないでしょうか。

ここで、手を洗いながら、生きものとして生きることの大切さを考えてみましょう。手洗いは、1人1人が自分で自分の命を守る行為です。しかもそれが感染の広がりを抑えて他の人の命を守り、みんなで行えば、社会の破壊を防げます。1人1人の力ってすごいのです。

自分を大事にすることが、みんなを大事にすることにつながるのですから、すばらしいですね。

自然は人間だけのためにあるのではない


生きものの世界では、それぞれの生きものが自分の特徴を生かしていっしょうけんめい生きているのですが、その結果、強いものだけ、きれいなものだけが残るということはなく、どんどん多様になりました。

最近の研究によって、多様な生きものがいるからこそ生きものの世界は続いてきたのだということがわかってきました。人間も多様な生きものの1つであり、みんなの中で生きているのです。

多様な生きものの中には毒を持つものや病原体など人間に害のあるものもいます。自然は人間だけのためにあるのではないことを承知したうえで賢く生きることが大事なのです。

日常土に触れ、汚れた手は自分で洗うという生活をしていると、自然に対して強い体と自分の身は自分で守るという強い心が持てます。

でも、現代社会では自然離れが進み、いざという時に弱さが出てしまう。新型コロナウイルスが、それを教えてくれたのではないでしょうか。権力やお金の力より大切なのは「生きる力」だということを。

弱いけれど思いやりがあった私たちの祖先


ところで生きものはそれぞれ特徴を持っています。人間の特徴は大きな脳を持ち、考えることであり、そこで生まれたのが「想像力」です。見えないものや、遠くにいる人、過去や未来にまで思いをはせるのは人間だけ。そこから生まれるのが「思いやり」です。

生きものとしての人間の1番の特徴が「思いやり」と知った時、生きものの研究をしていてよかったと思いました。そして、本当の幸せを求めるには、競争社会で格差をつくるのではなく、「思いやり」を生かしていくことだと強く思い、そのような社会づくりを願ってきました。

実は私たちの祖先がアフリカの森で暮らしていた頃、気候が悪くなり食べものが少なくなりました。祖先はあまり強くなかったので森の端に追いやられ、遠くへ食べものを取りに行かなければなりませんでした。それを自分だけで食べずに家族に持ち帰るためには、手が必要です。そこで二足歩行をするようになったのです。私は、この弱いけれど思いやりのある祖先が大好きです。

政治や経済を動かす方たちは、なかなかそういう気持ちになりません。でも、コロナウイルスの問題を乗り切るには、みんなの手洗いが大切だとわかったのです。

「生きる力」を基本にする社会に変わるチャンスです。1人1人が考えて、誰もができることをやっていく中で生まれる「思いやり」こそがよい社会をつくっていくのです。まず、家族やお友達の間での「思いやり」から始めましょう。

●中村桂子さんと土井善晴さんが語る「お正月料理の心」

撮影/大西成明 取材・文/浅原須美

『家庭画報』2020年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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