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読む者の胸にまっすぐ届く歌とエッセイ。『寂しき骨』池田理代子さんへインタビュー

〔今月の本/詩歌〕
『寂しき骨』池田理代子 著

池田さん

池田理代子
1947年大阪府生まれ。漫画家、声楽家。空前のヒット作『ベルサイユのばら』『オルフェウスの窓』など作品多数。47歳で東京音楽大学声楽科に入学。卒業後、ソプラノ歌手としても活動している。

中学生のときに詠んだ短歌が地域の文芸誌に掲載されて以来、長く短歌とつきあってこられた池田理代子さん。「父と戦争」から「最後の恋」まで、11の章で編まれた『寂しき骨』は、池田さんの心の動きが短歌とエッセイから浮かび上がる第一歌集だ。

「歌集をつくりたいと思ったのは、古希を超えてからですね。ここ数年、戦争のドキュメンタリー番組で、元兵士のかたがたが父と同じことを口にされるのを見ながら、みなさん同じ気持ちだったんだなあ、と感じていて。戦争経験者が遺したことばを引き継ぐためにも、父と戦争のことだけはどうしても本にしておきたかったんです」

兵士たちが、行き先も知らされずに乗せられた復員船から目にした富士山、そしていざというときにと渡された手榴弾。「父と戦争」の章の最後の歌《手榴弾一個ばかりの命にて 語れぬ日々を兵士は生きたり》は、今も夢に見るほど重い光景だと池田さんはいう。

父上と語り合えなかったがゆえに伝えたい戦争の記憶だけでなく、初恋、老いること、最後の恋に至るまでどの歌も、読む者の胸にまっすぐに届く。

「漫画を描いているときも、私はことばにはとてもこだわってきました。定型の力とか、そういうことを考えなくても、“てにをは”をきちんと入れて話せば、五と七という音にきちんと収まるように、古語であれ現代語であれ、日本語は押しなべて、五・七・五・七・七に合うようにできているんです。今はことばがどんどん崩されていますけど、そのことを若い人にも知っていただけると嬉しいですね」

歌集を読んでいて気づくのは、タイトルを取った《スポイトの命の水を含みをり 老い猫の背の寂しき骨が》をはじめ、池田さんの歌にはたびたび骨ということばが登場することだ。

「私は背骨を怪我して、長いこと痛みに苦しんでいるので、骨に対して意識があるのかもしれませんね」と、ご本人はいうが、人間の骨格をなしながら、肉と皮膚に覆われて表から見えない骨は、知らず知らずのうちに何かの暗喩となっているのかもしれない。

自分に降りてきたものが、かたちにまとまるまで、時間がかかるものもあれば、すっとことばになるものもあると話す池田さん。これからも短歌とどのようにつきあっていくのだろう。

「漫画を描くにもオペラを歌うにも体力が必要ですが、短歌は体が弱ってもつくることができるんです。何よりの勉強は人の歌を読むこと、よいと思った歌を手で書き写すことで、そういう営みはやはり大事だと思っています」

『寂しき骨』

池田理代子 著/集英社

中学時代から短歌に親しみ、現在は短歌会「塔」の会員でもある池田理代子さん。

徴兵され、全滅に近い戦いを強いられた南方や中国へと送られ、そして捕虜となり、辛くも生きて帰ってきた父親のこと、そしてその世代の人々が経験した戦争の記憶を自身のことばで遺したい。『寂しき骨』はそんな想いとともに、池田さんが長きにわたって詠んできた歌を編んだ第一歌集。

「父と戦争」にまつわる歌に始まり、母のこと、猫の看取り、そして「最後の恋」まで、全11章の各章に付されたそれぞれのテーマへの導入となるエッセイも、歌同様、読み手にまっすぐに届く。

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取材・構成・文/塚田恭子

『家庭画報』2021年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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