アート・カルチャー・ホビー

松本幸四郎夫人・藤間園子さんが案内する「東京友禅」の魅力


「きものに表現されている絵柄には、見る人の想像力をかき立てる絵画的な魅力があります」
さねかずらをカラフルな色と刺繍でモダンにデザインした訪問着。きもの/大羊居(日本橋髙島屋S.C. 本館7階呉服売場) 帯/桝屋髙尾(翠光) 帯揚げ/和小物さくら 帯締め/道明 バッグ/井澤屋 履物/銀座ぜん屋本店

この世のもののすべてがきものの柄になる

藤間 大羊居さんが創業されてから、かつては伊豆の伊東や駒場に工房があったそうですが、現在の大羊居の作品づくりはどれくらいの規模でなさっていらっしゃるんですか?

白石 中枢である中野の工房で下絵から友禅を行っています。約4人がこの仕事に携わり、そのほか、刺繍は先ほど作業をご覧いただいた佐藤のほかにベテランが4か所におります。

そのほか糸目糊置きをするところが2か所、地色を染めるところが1か所、箔置きをするところが2か所あります。

いろいろな縫い方を組み合わせてモチーフを表現するのが、大羊居ならではの刺繍。佐藤麻由子さんが刺繍をする様子を見学。

藤間 友禅には一枚のきものを作るのにもいろいろな工程があるんですね。大羊居さんの作品は、見る人の想像力をかき立てるようなものが多くて、描かれているものからさらに景色が広がっていくように思いました。「石垣文」のきものも写真で拝見しましたが、石垣がきものの柄になるなんて、すごい発想ですね。

白石 石垣文を最初に図案として構想したのは功造で、それから何代かにわたり使われているモチーフです。「この世のもののすべて、森羅万象がきものの柄になる。この世に嫌いな色なんてない」というのが、功造が遺した言葉です。ですから、現在も描かれる題材は和のものに限らず、洋のものも取り入れています。

先日も下絵を描いている里山が手がけた新作にはイタリアのヴェネツィアの風景やウィーンのシェーンブルン宮殿の動物園が描かれています。日頃目にしたものから着想を得るので、何でもきものの柄になるんです。

大羊居の配色を熟知している友禅担当の中村亜希子さん。隣りあう色彩が混ざらないように、糸目糊で防染して互いを際立たせる彩色をし、作品の重厚さを表現。

藤間 ものづくりの核心をついたお言葉ですね。大羊居さんが先代から受け継いだものを表現するうえで、最もブレてはいけないと思われているのは何ですか?

白石 すべてがそうだと思っていますが、構図から彩色、刺繍という全工程が一つになって初めて作品が完成すると私は思っています。

大羊居の特徴をひと言でいえば、「真似ができないこと」ですね。友禅だけ見ても、京都から染料を買っていますが、京都のかたから「大羊居の真似をしようと思ってもできない」といつもいわれます。大胆な柄があって、地色を入れていって、その中に効き色をきかせるというのが、私たちが目指していることです。

刺繍一つとっても、隣り合うところに同じ刺繍をしないというのもうちの基本です。それを感覚的に共有していますから、携わる人間によって、違うんです。うちはそれをよしとしていて、その人その人の感性に合った作品が生まれて、それがバリエーションの一つになると思っています。きっちりこうでなければならないということではなく、一人一人の個性を作品に出せたらいいですね。

藤間 下絵から多くのかたの手を経て完成しますから、図柄が育っていくというか、進化していくようですね。どの過程でも熟練した職人さんの存在が大切だと思いますが、そうした技を継承する必要もありますね。

白石 どんどんベテランが引退しますから、若手の職人を育成しなければならないと思っています。ぜひ若い人に興味を持ってもらいたいです。

下・友禅文様に煌めきと奥行きを加えるため、同系の階調を揃える刺繍糸。使用する縫い針は職人の手によって、刀のように打って作られる特注品で、糸を通すところが平たくなっている。

撮影/細谷秀樹 着付け/伊藤和子 ヘア&メイク/AKANE 構成・文/山下シオン

『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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