アート・カルチャー・ホビー

フランスで1つ星を獲得した初の日本女性、神崎千帆シェフの情熱

美食の街・パリで“自分たちの色”で勝負

その後、マウロシェフの南米に出店する計画に、ミラズール時代に出会い現在も公私ともにパートナーであるマルセロ・ディ・ジャコモ氏とともにシェフ&シェフパティシエとして出向する予定でしたが、頓挫。紆余曲折あり、2014年パリへ。

7区の大きな有名店を任されたのち、パトロンの支援を受け、ついに自分たちの求める形の「ヴィルチュス」をオープンしたのは2016年4月。2017年には現在の場所に移転しました。

店内を彩るフラワーアレンジメントやオブジェも目を引いて。

いつでも“間”の気持ちがわかる料理人でいたい

「移転前の店は本当に小さくて、私は前菜とサービスも担当していたんです。いろいろな苦情をいただきながらも、必死に厨房とホールを行き来する私を可哀想に思ったのか(笑)、『頑張って』と多くのお客さまが励ましてくださって。

それが私には大きな学びになったんです。

それまでは、サービスに『パン出して』と言われても、取り掛かっている料理を優先してしまいがちでした。でも最後の一口というときにパンがない状態なんて、嫌じゃないですか? そういう瞬間の空気を汲み取るということがとても大切だと体感しました。

常にお客さま、サービス、研修生も含めた調理場の“真ん中”でいたいと思っています」

建築家のオーナーが、デザインにこだわってセレクトしたインテリア。美しい照明にチェア、アートなどで彩られた洗練された空間。

ついに夢を叶えた瞬間、涙があふれた

こまやかな気遣いと努力で、自分たちの描くレストラン像を形にしてきた神崎さんとマルセロさん。2019年1月、ミシュランのセレモニーが行われるわずか2日前のランチタイム、ついに一本の電話が。

「直前まで全く連絡がなかったので、今年もダメだったか、と諦めていました。電話で『あなたたちは星を獲得しました』と伝えられたときは、文字通り号泣し、スタッフ全員で歓喜しました」

実はこの1つ星獲得は兼ねてからの念願だったといいます。「セレモニーでは、『星を持ち望んでいましたか?』と聞かれ、皆さん『全く意識していませんでした』と答えていたのですが、私は即答で『本当に待ち望んでいました!』と答えました(笑)。何しろヴィルチュスをスタートしたときからの目標だったので」

1つ星獲得を支えてくれたサービスのスタッフたちとは、お互いが言いたいことを言い合える良い関係。右から神崎シェフ、ソムリエのジュリアンさん、サービス担当の女性スタッフ2人、公私ともにパートナーであるマルセロさん。

そして、次世代へ繋ぐことが新たな目標に

星獲得というひとつの目標を達成した神崎さんに、次に挑戦したいことは?と問うと、こんな答えが返ってきました。

「スタッフを育てること、ですね。自分たちの理想を共有し、一緒に形にしてくれる協力者を増やすことは、そう簡単なことではありません。互いに高みを目指すことのできるスタッフは、替え難い宝なんです。そして、彼らとともに、さらに自分たちらしいスタイルを作り上げていきたいですね」

ヴィルチュスは2020年1月末に発表された「2020年ミシュランガイド」フランス版でも1つ星を獲得しました。

次回(後編)は、ヴィルチュスの料理とサービスに見る美の形をお届けします。2月5日配信予定。

神崎千帆/Chiho Kanzaki

料理人。パリ12区のレストラン「ヴィルチュス(VIRTUS)」シェフ。調理師専門学校卒業後、フレンチレストランに勤務。20歳のときに初渡仏。2年間研修生として経験を積んだのち帰国。5年間のフレンチレストラン、パティスリー、バーでの修業を経て、再び渡仏。2007年から7年間在籍した南仏マントンの名店「ミラズール」(2019年現在3つ星)では、スーシェフを務める。2016年、公私ともにパートナーであるマルセロ・ディ・ジャコモ氏とともに、オーナーの支援のもとパリ12区にレストラン「ヴィルチュス」をオープン。2019年「ミシュランガイド」フランス版で1つ星を獲得。世界が注目するスターシェフの一人に。

Information

ヴィルチュス(VIRTUS)

29 rue de Cotte Paris 12
電話 09 80 68 08 08
営業時間 火曜 19時〜21時、水曜〜土曜 12時〜13時、19時〜21時
定休日 日曜・月曜
ランチメニュー「Formule Découverte Déjeuner」39€~、
ランチ&ディナーメニュー「Menu Dégustation」85€~
(2020年2月現在)
https://www.virtus-paris.com


ルロワ 河島 裕子 / Hiroko Kawashima Leroy

ファッションライター。『家庭画報』をはじめ大人の女性に向けた雑誌で、ファッションやジュエリー、時計を中心に幅広く執筆。2018年より、家族とともに、拠点をフランス北部の田舎に移す。2019年夏、ついに憧れのブルゴーニュに家を購入! 夢は夫とともにB&Bを営むこと。パリで道ゆくおしゃれな人に体当たり取材する「パリ、大人のおしゃれの見本帳」、行き当たりばったりのフランス移住エッセイ「意外となんとかなる!? 40代のフランス移住」を同サイトで連載中。

写真/水島 優 編集・取材・文/ルロワ河島裕子
表示価格は税抜きです。

※神崎千帆シェフの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」です。

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