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リッカルド・ムーティ氏に特別インタビュー!巨匠が語る「音楽の力」とは?

これが「音楽の力」 第1回(全2回) 今、音楽教育や、リベラルアーツとしての音楽に対する関心が世界的に高まっています。音楽によって感性が研ぎ澄まされることで、一人一人の人生が、そしてやがては社会全体がもっと豊かに成熟していくのではないか─。「家庭画報」は、音楽が持つ力を今あらためて考えます。

巨匠リッカルド・ムーティ氏インタビュー
「音楽の力」とは何なのでしょう

時代も国境も超えて人々の心を魅了し続けるクラシック音楽。その本質とは一体何なのか─。マエストロ・ムーティが、自身の長いキャリアで深めてきた考察を語ってくれました。

「たった一つの音で愛を表現できる──。それこそが音楽の真髄なのです」

リッカルド・ムーティ

音楽の最高峰を極めた世界的指揮者(マエストロ)リッカルド・ムーティ氏。若手音楽家の育成にも熱心な巨匠が、音楽の力の本質について語ります。

世界の誰もが抱く感情が音楽には凝縮されている

音楽の力とは何か、その問いに答えるのに、イタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディからヒントをもらうことにしましょう。

ヴェルディの音楽には実にさまざまな愛が表現されています。たとえばオペラ『仮面舞踏会』で総督リッカルドがアメリアに愛を告白する場面では、たったひとつの和音で愛を表現しています。

またオペラ『リゴレット』では、苦しみ泣いている娘ジルダに対する父の愛を表現しているだけではなく、世界中すべての父の娘に対する気持ちを代弁しているかのようです。音楽によって、登場人物の感情が世界共通のレベルまで高められる。ですから世界中の人が感動できるのです。

ところで、特にヴェルディのオペラに関しては「言葉と音の関係」を結びつけて解釈せねばなりません。たとえばある和音にf(フォルテ)と書いてあっても、「君を愛している」と「君を憎んでいる」ではf の重さや性格が異なります。

音楽における音は、ただの音ではありません。言葉と音とが互いに補い合い、高め合うことで、人々の感情に強く訴えかけるものになる─そこに音楽の真髄があるのです。

リッカルド・ムーティ

楽譜どおりに演奏されないイタリア・オペラ

私は1975年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に伴って初来日して以来、何度も日本で公演を行いました。

特にこの10年、日本の聴衆の間でイタリアの音楽や文化に対する興味が急速に高まっているのを実感するとともに、日本の皆さんが世界で最も音楽を理解する心構えができているかたがただと感じています。

私は偉大な指揮者アルトゥーロ・トスカニーニのアシスタントだったアントニーノ・ヴォットのもとで厳しい教育を受けました。それから指揮者として世界を巡る中で、残念なことに祖国イタリアも含めて、ヴェルディの精神が軽視されていると感じるようになりました。

他の作曲家の作品は敬意をもって楽譜どおりに演奏されていますが、イタリアのオペラ(特にベルカントのオペラやヴェルディ初期作品など)では演奏効果を狙い、叫ぶような大きな声で歌ったり、音を過度に長く伸ばしたり、音程を勝手に変えたり、カットしたり、作曲家の意思に反した演奏がまかり通っています。

ヴェルディ自身も著作権協会がなかった当初はこの状況に苦しみ、「自分が書いたとおりに演奏するべきだ。創造者は作曲家ただ一人だけである」と何度も手紙に綴っています。

イタリア人として、またヴェルディの精神の継承者として、ヴェルディがこだわった詳細に責任を持たなくてはならないと思いました。

若い世代に伝えたい。正しい演奏の先にある真実

若い音楽家に本当のことを教えたいという思いから、2015年に若い指揮者と歌手を育てる「イタリア・オペラ・アカデミー」を創設しました。

指揮者とは、楽譜に書かれたリズムや強弱だけでなく、役柄の性格や曲の生まれた背景など、すべてを演奏者たちに教えてあげなければならない立場なのです。

こうしたアカデミーを通して、若い音楽家たちに音楽のあるべき姿を理解して受け継いでほしいと願っています。

一音、一休符に込められた思いは国も時代も超える

ガブリエーレ・ダヌンツィオというイタリアの詩人は、ヴェルディの死に際してこう書き残しました。「ヴェルディは世界中の希望と、世界中の苦しみと嘆きを表現した」と。ヴェルディの作品には貴族的な高い精神性と深い思考があります。

偉大な作曲家たちが楽譜の中の一音、一休符に込めた思いや精神──それはヴェルディに限ったことではありません。その曲を聴いただけで万人が同じ思いを共有できる、それが音楽の力です。

音楽が持つ素晴らしい力を、時代も国も超えて人々に伝えていくこと、これが音楽家の使命であると思っています。

リッカルド・ムーティ

リッカルド・ムーティ
指揮者。1941年イタリア・ナポリ生まれ。ナポリ音楽院からミラノ音楽院へ移り、ヴォットに師事。67年グィード・カンテッリ国際指揮者コンクールにて満場一致で優勝。フィルハーモニア管弦楽団首席指揮者、フィラデルフィア管弦楽団、ミラノ・スカラ座の音楽監督を経て、現在、シカゴ交響楽団音楽監督を務める。2018年、自身5度目となるニュー・イヤー・コンサートでのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との共演も記憶に新しい。

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