美容・健康
2022/07/27
天野惠子先生のすこやか女性外来 第3回(02) 急に始まった気分の落ち込みやもの忘れに、「もしかして心の病?」と心配になる人も多いようです。天野先生によれば「更年期のメンタル症状の多くは、女性ホルモンの減少による一時的なもの」とのこと。更年期の心や脳はどうなっているのか ──。正しい知識を得ることが対処法の第一歩です。前回の記事はこちら>>
●前回の記事
不眠、イライラ、うつ、思考力低下…。更年期のメンタルの不調を正しく知ろう
天野惠子(あまの・けいこ)先生
静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。
イライラ、うつ、もの忘れなど更年期のメンタル症状の多くはセロトニンの減少による。
更年期のメンタル症状には神経伝達物質のセロトニンが関係しています。エストロゲンの減少が、心を安定させ脳の働きを促すセロトニンの分泌を減らすのです。また、セロトニンは睡眠を司るメラトニン生成の材料にもなるため不眠の訴えも多くなります。
精神的症状の多くは、だるい、疲れやすい、頭痛など身体症状を伴います。内科的な診察や検査で他の病気の可能性を除外しておくことも大事です。
【エストロゲン】
女性の健康と若さを保つ
・基礎代謝を維持し低体温を防いで疫力を保つ。血管や肝臓、心臓に作用して動脈硬化の進行を予防する。
・骨量の維持や皮膚の潤いを保つ。
・女性らしい体つきをつくる。
★セロトニンの分泌を促す
【セロトニン】
脳全体の働きを調整し心の安定を図る
・気分を安定させ、不安を軽減する。
・頭の回転を速くし、思考を明晰にする。
・生体リズムや睡眠を整える。
・体温を維持する。
・痛みの感覚を抑制する。
・筋肉の緊張を保ち、背筋を伸ばし顔の表情を引き締める。
★メラトニンをつくる材料になる
【メラトニン】
睡眠リズムを整え体内時計を正常に保つ
・睡眠と覚醒のリズムを整える。
・睡眠パターンを改善してうつ症状を改善する。
・抗酸化作用によって加齢を遅らせる。
【記憶力の低下】
●もの忘れが激しい
●新しいことを覚えられない
学習と記憶を司る海馬の細胞を保護するエストロゲンが減少し、細胞の死滅が進む。セロトニンの減少により海馬の処理速度が低下する
【不眠】
●寝つきが悪い
●夜中に途中で目が覚める
●早朝に目覚めてしまう
セロトニンの減少により、睡眠リズムを整えるメラトニンの生成が減る。のぼせ、発汗など身体症状も原因になる
【興奮しやすい】
●イライラする
●怒りっぽい
●神経質になる
セロトニンが減少し、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑えられなくなる
※ノルアドレナリンはストレス刺激に反応して興奮状態や闘争態勢をつくり上げる。ドーパミンは快楽、前向きな意欲、性や食の欲求などの行動にかかわる。セロトニンはこの2つの神経伝達物質を制御し平常心をもたらす働きをしている
【集中力・判断力の低下】
●頭がぼーっとする
●頭が回らない
●考えがまとまらない
エストロゲンが減少し自律神経のバランスが乱れることによる
【気分が落ち込む】
●ゆううつだ
●不安だ
●くよくよする
●意欲がわかない
心の安定を図るセロトニンの減少による
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:http://www.nahw.or.jp/hospital-info
*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:https://joseigairai.online/
YouTube「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>>
1「更年期は女性の体の“変化のはじまり”」
1−1 更年期と“その後”の元気のために、体の変化を知りましょう
1−2 女性の健康の守り神・エストロゲンがゼロになったら、生活習慣で補いましょう
1−3 更年期の不調や病気予防に! 女性医療の先駆者が教える生活習慣の「基本5か条」
1−4 女性外来を訪ねて「伊豆美レディスクリニック」
2「だるさ、頭痛、冷え、動悸も。更年期の不調は全身に」
2-1 10年間、我慢するのはもったいない。自分に合う対処法を見つけましょう
2-2 更年期の症状が全身に出るのはなぜ? 訴えの多い10の不調と対処法
2-3 更年期症状の程度を知り、適切な対処法を。専門医も使う簡易テストでセルフチェック!
2-4 女性外来を訪ねて「春日クリニック」
3「不眠、イライラ、うつ、思考力低下。更年期は心も脳も不安定」
3-1 不眠、イライラ、うつ、思考力低下…。更年期のメンタルの不調を正しく知ろう
3-2 更年期のメンタルヘルスを左右する3つの物質とは。減少すると起こる不調は?
3-3 運動・カウンセリング・漢方薬。対処法はいろいろ(8/3公開予定)
3-4 女性外来を訪ねて「杉本クリニック」(8/10公開予定)
撮影/鍋島徳恭 イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2022年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
© SEKAI BUNKA PUBLISHING INC. All rights reserved.
Loading