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“足し算”の美をテーマに、日本文化の深部を探る書籍『かざる日本』。美術鑑賞に新たな視座を

2022.04.06

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〔今月の本/新たな視座を得る〕
『かざる日本』橋本麻里 著

橋本麻里

橋本麻里(はしもと・まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。公益財団法人永青文庫副館長。金沢工業大学客員教授。新聞・雑誌等への寄稿のほか、NHKの美術番組などを中心に日本美術をわかりやすく解説。「北斎づくし」(2021年)など、展覧会企画も多数。著書に『橋本麻里の美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)など。

日本美術を見つめ続けてきた著者が“足し算”の美のつくり手を巡る


引き算の美、余白の美こそが日本美術の真髄。


私たちがしばしば目にするこの定説に“「そちら」の日本も確かにあるし、決して嫌いではない。だがそうではない方の、足し算にかけ算で盛って装って注ぎ込んだ過剰な美麗が床上浸水しているような日本も、同じくらい魅力的だ”(本書まえがきより)と真っ向勝負を挑んだのが『かざる日本』だ。

著者は、長く日本美術を中心にライター・編集者として活躍し、展覧会の企画を手がけ、永青文庫の副館長を務める橋本麻里さん。

「平安時代末期に創建された三十三間堂の千手観音像を見れば、圧倒的な数を集めて、これでもかというような過剰な美を愛でるという感覚が日本人にあったことがわかります。“引き算の最高峰”のように讃えられる桂離宮も、写真で見るのではなく足を運んで実物を前にすれば、かなり“かざっている”のが明らかです」と橋本さん。

引き算の日本美とかざる日本美。どちらが上かではなく、どちらも極上。合わせ鏡のような対の存在だという。

そのことがよくわかるのが「茶室」の章だ。現存する最古にして究極のわび茶室、国宝「待庵」と、豊臣秀吉を悪趣味と断じるときに例に挙げられる「黄金の茶室」。橋本さんは、ほぼ同時代のどちらの茶室でも、実際に茶を喫した人が同じように強烈な体験を得たのではないかと喝破している。

とくに熱海・MOA美術館で復元された黄金の茶室での体験をVR(ヴァーチャル・リアリティ)にたとえた描写は圧巻で、茶室がどれほど非日常的な感覚に誘う装置であるかが迫りくる。

岩波書店の『図書』での連載をまとめた本書は「連載を始める前は、たとえば私が工芸の店をもつとしたらこんな品揃えにしたいという想像から、“ギャラリー橋本”のようなイメージで構成しようと考えていました」と橋本さんがいうように、組紐から始まり、鼈甲(べっこう)、帯、薩摩切子、螺鈿(らでん)など、さまざまな伝統工芸のつくり手を訪ねてまとめられている。

話を聞き、歴史をひもときながら、日本文化のさらに深部へと読者を導いていく。その道しるべが“かざる”というキーワードなのだ。

「連載を続けるなかで、結髪(けっぱつ)や音など、物として売買できないジャンルも扱いたいと思い始めました」という全19ジャンルの“かざる”日本美。

読み進めるうちに“日常を律する道理や合理性とは相容れない熱狂や畏怖を喚起し、人を制御不能な力で惹きつける”(同)という、日本美術への新たな視座が生まれる。

読者は成人式や七五三などの人生儀礼やお祭りなどの賑々(にぎにぎ)しさが決して“下手(げて)”ではないことがわかり、さらには美術館で日本美術を鑑賞する目が更新されたことに気づくだろう。

『かざる日本』

装幀・本文デザイン/コバヤシタケシ

『かざる日本』橋本麻里 著/岩波書店

『図書』での連載に新たに書き下ろしを加えた一冊。座敷飾り、供花神饌(きょうかしんせん)、変化朝顔などの各章に多数の参考資料が付記され、興味のある日本美術の分野をさらに深く知るための入り口としても活用できる。装幀にあしらわれているのは《金銀鍍宝相華文透彫華籠(きんぎんとほうそうげもんすかしぼりけこ)》(神照寺蔵 京都国立博物館寄託)。

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構成・文/安藤菜穂子 撮影/本誌・中島里小梨(本)

『家庭画報』2022年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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