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藤田美術館に国宝「曜変天目茶碗」が里帰り。2022年4月リニューアルオープン

2022.03.31

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藤田美術館の新たな船出 いざ、出帆のとき(前編) 2017年に一時閉館し、2020年8月に新たな建屋が竣工後、開館準備を続けてきた藤田美術館。2022年4月に、いよいよ出帆のときを迎えます。
藤田美術館弥勒菩薩交脚坐像(みろくぼさつこうきゃくざぞう) 詳細は記事下のフォトギャラリーへ。

一日限りの特別な展覧会へ


作品が初めて展示室に入る瞬間に立ち会ったのは、これまでの歩みを見つめてきた千 宗屋さんと、戸田貴士さん。

その作品とは、両者が「ぜひ観たい」と所望した名品ばかり。開館に先駆けて密やかに行われた、一日限りの特別な展覧会へご案内します。


千 宗屋さん
武者小路千家 第15代家元後嗣 千 宗屋さん(せん・そうおく)
1975年京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学大学院前期博士課程修了(中世日本絵画史)。2003年次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名。同年大徳寺にて得度。隨縁斎の斎号を受ける。

戸田貴士さん
谷松屋戸田商店 戸田貴士さん(とだ・たかし)
1981年、谷松屋戸田商店の13代目、戸田 博氏の長男として大阪に生まれる。3年間のフランス留学を経て、2003年に江戸時代から続く茶道具商谷松屋戸田商店に入社。

藤田館長
藤田美術館 館長 藤田 清さん(ふじた・きよし)
1978年、藤田傳三郎から数えて5代目にあたる藤田家5男として神戸に生まれる。大学卒業後、2002年に藤田美術館へ。2013年館長就任。

国宝 曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)の里帰り


曜変天目茶碗国宝 曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)詳細は記事下のフォトギャラリーへ。

「作品が近く感じられ親密に鑑賞できる展示室を目指しました」── 藤田 清館長


藤田 おかげさまで、一部ですが作品が美術館に戻ってきました。今日はかねてからお二人にリクエストいただいていた作品と、僕も見てみたい作品を展示室に飾ってみようという趣向でお集まりいただきました。

 展示室に作品を入れるのは、これが初めてですか?

藤田 そうなんです。作品がどんなふうに見えるのか、僕もすごく楽しみにしていました。

戸田 作品がここに戻ってくるのは何年ぶりでしょうか。

藤田 約5年ぶりです。旧館の取り壊し前に作品をすべて外に出して別の場所で保管していました。新館が竣工してからもそのまま2回夏を越し、建物を空気に晒して湿気や有害物質の有無などを検査してから戻し始めました。では、展示室へどうぞ。

展示室内観展示室内観。手前は重要文化財《古伊賀花生 銘 寿老人》

「今はまだ気恥ずかしそうな作品がこの空間にどのようになじんでいくかが楽しみです」── 千 宗屋さん


 前回伺ったときは展示室が空っぽだったので、やはり作品が入ると雰囲気が変わりますね。空間が生き生きとしています。

戸田 《曜変天目茶碗》は色が鮮やかに浮かび上がっていますね。このケースは特別に作ったのですか?

曜変天目茶碗

藤田 展示台の四隅にLEDを備えた展示ケースを作成しました。藤田美術館の《曜変天目茶碗》は見込みだけでなく外側にも斑点が出ているので、その様子も見ることができます。照明に工夫ができなかった旧館での展示では見えなかった色が、いくつかの階層で現れていることまで見て取れると思います。ただ、昔の人たちが自然光や蠟燭の灯りで見ていた姿とは異なるのだろうと思うと、見えすぎてしまうのはどうかと判断には迷いました。

 確かに姿がよく見えて、あらわになったという感じもありますね。引っ越したばかりのおうちで作品が気恥ずかしそうにしているというか(笑)。そのうちこちらの目もなじんでくるし、作品も空間になじんでくるのでしょう。

展示ケースを眺める御三方

新しい展示ケースに収まった姿を眺める藤田館長(右)、千さん(中)、戸田さん(左)。天井と台の四方にLEDライトが仕込まれ、見込みと共に通常は影になり見えにくい茶碗の胴(外側)も照らす。

戸田 ケースのサイズもいいですね。作品が近くにあって、ちょうどお茶室に座ってお茶碗を拝見しているような気分になれます。

 ガラスも低反射なので、より近く感じられますね。

「つい両手が出て突き指してしまいそうです」── 戸田貴士さん


赤楽茶碗 銘 文億[戸田貴士さんが観たかった作品]赤楽茶碗 銘 文億(あからくちゃわん めい ぶんおく)

古井戸茶碗 銘 老僧[戸田貴士さんが観たかった作品]古井戸茶碗 銘 老僧(こいどちゃわん めい ろうそう)

各詳細は記事下のフォトギャラリーへ。

戸田 つい両手が出て、突き指してしまいそう(笑)。僕が拝見したかった《文億》は形が面白いので、どこからでも見られるのはありがたいですね。《老僧》は、ぜひ「高台が見られる日」を作ってほしい。

藤田 ゆくゆくは、そんなことも考えていきたいですね。

花蝶蒔絵挟軾[千 宗屋さんが観たかった作品]国宝 花蝶蒔絵挟軾(かちょうまきえきょうしょく)

千さんが観たかった作品[千 宗屋さんが観たかった作品]国宝 花蝶蒔絵挟軾(かちょうまきえきょうしょく)

法隆寺金堂天蓋附属飛天像[千 宗屋さんが観たかった作品]上・法隆寺金堂天蓋附属飛天像(ほうりゅうじこんどうてんがいふぞくひてんぞう) 下・法隆寺金堂天蓋附属鳳凰(ほうりゅうじこんどうてんがいふぞくほうおう)

交趾大亀香合[千 宗屋さんが観たかった作品]交趾大亀香合(こうちおおがめこうごう)

各詳細は記事下のフォトギャラリーへ。

 《法隆寺金堂天蓋附属鳳凰》と《同飛天像》は、同じ時代の同じ場所から出ているものなので一緒に飾れるといいのですが、この展示ケースには収まりきらなかった(笑)。自立しない飛天像の展示は何か仕組みを考えられていますか?

「この可動壁の使い方を工夫してこれまでにない展示を考えていきたいですね」── 藤田 清館長


藤田 そうですね、台を作って下から支えるか、上から吊るか......。何かしら作って展示を工夫したいと思います。展示の工夫といえば、この可動壁です。開館後は、展示替えのための休館日を設けずに、展示室の一部をこの壁で仕切って月単位で順次作品を入れ替えていきます。

 数か月ごとに訪れると、展示室の様子がすっかり変わっている?

可動壁展示ケースを内包した可動壁。前の壁に柄香炉、後ろの壁に墨蹟を飾ると、床の間を解体し再構築したような展示に。

藤田 そうなるようにしたいですね。それから、この壁の厚みを利用して、中に展示ケースを作りました。スライド式で両サイドが開くようになっています。今日はこの壁を2枚使って、奥に掛け軸、手前に柄香炉を入れてみました。正面から見ると、奥行きのある床の間のようにも見えます。

戸田 壁の間を通ると、床の間の中に迷い込んだような不思議な浮遊感も味わえますね。

藤田館長が観たかった作品[藤田 清館長が観たかった作品]国宝 深窓秘抄(しんそうひしょう)

物初大観墨蹟 山隠語[藤田 清館長が観たかった作品]上・重要文化財 物初大観墨蹟 山隠語(もつしょたいかんぼくせき さんいんご) 下・重要文化財 金銅柄香炉(こんどうえごうろ)

各詳細は記事下のフォトギャラリーへ。

 掛け物の物初大観は中国南宋の禅僧の墨蹟で、禅宗では柄香炉はあまり使いませんが、それでも何かお坊さんが柄香炉を手にここに座っていらっしゃるような様子がイメージできますね。

藤田 下を向いて一つの作品をじっくり見るだけでなく、視線を上げて作品同士が響き合う空間そのものを見ていただけるように、作品の取り合わせも考えていきたいです。

 今日は奥の掛け物の後ろは閉じていますが、掛け物の表裏が両側から見られるようにするのも面白そうですね。細い紙を貼って折れを直す表具の裏打ちなどは通常は外には見せないところで、私たちも出したり仕舞ったりするときだけ目にするものです。掛け物があまり身近ではなくなった現代では、そうしたところを見せることも美術館の役割の一つになるかもしれません。

藤田 そうですね。日本文化に気軽に触れられる展示やイベントもたくさん企画していきたいです。

千・戸田 僕らもご協力します!

Information

藤田美術館

大阪市都島区網島町10-32

TEL 06(6351)0582
開館時間 10時~18時
休館日 不定休
入館料 1000円

http://fujita-museum.or.jp/

    藤田美術館の歩み

    1841年●藤田傳三郎誕生
    萩の醸造家の4男として誕生し、10代から商才を発揮。明治維新では長州藩の一員として奔走。維新後は実業面から日本の近代化を支え、関西屈指の実業家に。その傍ら美術品を好み、海外流出や廃棄の憂き目にあった日本美術を保護する目的で蒐集を行った

    1869年●長男・平太郎誕生

    1880年●次男・徳次郎誕生
    兄弟ともに父に続いて実業の傍ら文化財を保護・蒐集した

    1912年●傳三郎没

    1945年●大阪大空襲
    藤田邸は全焼。美術品を収めた3棟の蔵が奇跡的に焼け残り、のちの藤田美術館となる

    1954年●藤田美術館開館
    平太郎の妻・富子が初代館長を務める。蔵を展示室とし、春と秋の年2回展覧会を開催

    2017年●建て替えのため一時閉館
    蔵の展示室の老朽化のため、全面的な建て替えを決定

    2020年8月●新建屋竣工

    2021年4月●一部エリアをプレオープン

    2022年4月1日●藤田美術館リニューアル開館
    リニューアル開館藤田美術館外観。日が暮れると、行灯のように周囲を照らす。手前の「土間」は、お茶と団子が楽しめるミュージアムカフェ。白い壁の奥が展示室




     

    〔特集〕藤田美術館の新たな船出 いざ、出帆のとき


    藤田美術館の新たな船出「いざ、出帆のとき」(前編)

     

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    撮影/小野祐次 構成・文/安藤菜穂子

    『家庭画報』2022年4月号掲載。
    この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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