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【ワルツ対談】指揮者 高関健さん×音楽評論家 舩木篤也さん。3拍子の魅力に迫る!

“踊らない”ワルツは何を表現しているのか

舩木 高関さんご自身は、ワルツ的3拍子の中で興味を引かれる音楽は?

高関 19世紀末のグスタフ・マーラーと20世紀前半のリヒャルト・シュトラウスですね。踊らない、象徴としてのワルツを書いています。

舩木 古きよき時代の郷愁を誘うものの表象として、アイロニカルに使われていますよね。たとえばリヒャルト・シュトラウス『ばらの騎士』(1910年)のワルツがあります。

「“古きよき時代”を表すため、ワルツの様式が皮肉まじりに使われていますね」(舩木さん)

高関 彼は最も前衛的なオペラ『エレクトラ』を書いた後、1世紀半前のモーツァルトの世界観にぱっと作風を変えています。その一つ目がウィーンを舞台にした『ばらの騎士』です。

舩木 まだウィンナー・ワルツが普及していない18世紀半ばが舞台ですが、時代考証とは関係なく、ワルツを郷愁の念と重ね合わせて、20世紀初頭の聴衆が「古きよき時代は終わった」と感じられるように書いたのでしょう。シュトラウス的な苦みを出すために。

高関 ウィーンのコーヒーの苦さが感じられるように、微妙にうまくできていますよね。マーラーは少し違います。交響曲9曲のうち第8番以外は、すべて異なるテンポで3拍子の音楽を書いているのが面白い(スケルツォ楽章)。初期の第1番・3番はゆっくりのレントラー、第4番では速いレントラー、第5番ではウィンナー・ワルツ、第6番では変拍子、第7番では「死の舞踏」のような曲。

そして第9番と、状況は徐々に悪くなっていく。本人の性格の変化かもしれませんが。ボヘミアに生まれ、ウィーンに出たユダヤ人で、どこに自分の足の置き場があるのか、根本的なことを常に問い続けていた人でもありましたから。

舩木 アイデンティティの模索があったかもしれませんね。ではマーラーの3拍子で最もやりがいを感じるのは?

高関 演奏が大変なのは第5番以降ですね。2拍目を早くするよりも、タ・ンタタの2拍目の浮き上がる時間をどうするか。マーラーは5回の改訂を重ねる中で、「私はこう楽譜を書いたけど、実際はこう演奏されている」と指示している箇所があります(下の譜例参照)。

[対談]高関 健×舩木篤也

マーラーの交響曲第5番の第3楽章より。2拍目の8分休符に付点をつけて伸ばすよう、作曲家自身の指示どおりに書き換えた高関さんの楽譜(同じ音型の箇所に注目)。ふわっと浮き上がる印象に。

舩木 演奏習慣を知っていれば、書かなくても伝わるだろうと。でも伝わらなかった。後世様々な国で演奏される場合、ウィーンならではの「なまり」はかみ砕かないと伝わらない不安があったのでしょう。ワルツの国際化が背景にありますね。

高関 ええ。一方リヒャルト・シュトラウスは書いていない。「わかってるでしょ」と。ウィーン人は2拍子が前に出るのを止められないから、伴奏のほうが前に出てメロディとずれる。そんな箇所が『ばらの騎士』にあります。意図的に楽しんで書いてますよね。

舩木 彼らしい!ブルックナーの交響曲も面白いですね。最もワルツっぽいのは第3番のトリオでしょうか。

高関 主部の速いスケルツォに挟まれているトリオ部はレントラーですね。ブルックナーは遅い舞曲(第4番、6番、8番)と速い舞曲(第7番、9番)を交代に書いています。

舩木 故郷である上部オーストリアのレントラーが基本と。ではロシアは?

高関 ロシアでワルツを書いたのは三大バレエを書いたチャイコフスキー。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』にしても、正確な3拍子を刻まないと踊れません。北欧のシベリウスは交響曲第4番・5番で象徴的にワルツを書いています。

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