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石清水八幡宮に納める供花神饌の1つ、橘。実の色に代々の繁栄を願って【橙色】京都のいろ・長月 第18回

〔連載〕京都のいろ 京都では1年を通してさまざまな行事が行われ、街のいたるところで四季折々の風物詩に出合えます。これらの美しい「日本の色」は、京都、ひいては日本の文化に欠かせないものです。京都に生まれ育ち、染織を行う吉岡更紗さんが、“色”を通して京都の四季の暮らしを見つめます。連載一覧はこちら>>

【橙色】
石清水八幡宮に納める、染め和紙の供花神饌のひとつ、橘。その実の色に代々の繁栄の願いを込めて

文・吉岡更紗

本日9月15日は、京都の南西、八幡市男山にある石清水(いわしみず)八幡宮にて「石清水祭」が執り行われます。「生きとし生けるもの」の平安と幸福を願う祭儀として始められ、旧暦の8月15日に執り行われていました。天暦2年(948)から、天皇の命により勅使を遣わし、国家の安寧と国民の幸福を祈る勅祭となりました。歴史的な事情で途絶えた時期もありましたが、平安時代より続く祭礼です。

深夜午前2時から御本殿で、三座の御神霊を御鳳輦(ごほうれん)と呼ばれる神輿に遷(うつ)され、山麓へと下り、様々な儀式を経たあと、やがて頓宮(とんぐう)に導き入れられ、神饌(しんせん)が供えられます。本来であればそのような形で儀式が進められますが、本年は昨年同様略儀となり、御神霊は参道を下らず、そのまま御本殿で執り行われることとなりました。

「供花神饌」。例年は祭礼後、頓宮に並べられる。(2013年撮影)写真/伊藤 信

その三座の神霊には、御飯(おんいい)や、焼き鳥など火を通した熟饌(じゅくせん)、魚、野菜などの火を通さない生饌(せいせん)、そして染め和紙で作られた供花(きょうか)の3種の神饌が供えられます。供花神饌とも呼ばれるこの花は、三座の神霊に春夏秋冬の花を捧げる意味合いがあり、水仙、椿、南天、菊、梅、竹、松、牡丹、橘、桜、杜若(かきつばた)、紅葉の十二台が、次々と供えられます。毎年この日に、一堂に12種類の生花を用意するのは困難ということもありますが、紙の花を捧げるという儀式は仏教的な影響も受けているといわれています。

橘の台。写真/吉岡更紗

この供花の製作を、毎年紙を染めるところから、供花の造形までを染司よしおかが承るようになって20年以上になります。3月頃までには、それぞれ必要な紙を染め、少しずつ花の造形を行います。放生会(ほうじょうえ)でもあるため、同じく紙粘土と和紙で作った季節に合った動物も添えて、8月末になると台への取り付けが始まります。工房内はこの期間、日々美麗な花々が咲きほこり、その姿は大変華やかです。

石清水八幡宮の舞殿に植えられた橘。写真/石清水八幡宮

さて、その十二台の一つである橘は、石清水八幡宮の御神紋のひとつです。京都御所の紫宸殿前には「左近の桜、右近の橘」が植えられていますが、石清水八幡宮の舞殿(まいどの)には東西に橘の木が植えられています。秋から冬にかけては、たくさんの実がなります。橘の実は、古来不老長寿の霊薬とされていて、食酢にしたり、陳皮にするなど、体を守る薬として使われますが、石清水八幡宮でも収穫した後、御神酒として「橘酒」を造られるそうです。

この橘の実のやや赤みのある黄色は「橙色」と呼ばれますが、「だいだい」という呼び方を「代々」とかけて「代々栄える」という意味合いで大切にされてきた色でもあります。

9月15日は、毎年続くこの祭礼で、御神霊に捧げる供花をたゆまずにお納めできるように、と願う日でもあるのです。

吉岡更紗/Sarasa Yoshioka

「染司よしおか」六代目/染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。

染司よしおかは京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行なっている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手がける。

https://www.textiles-yoshioka.com/

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吉岡幸雄(著)
更紗さんのお父様であり、染司よしおかの五代目である吉岡幸雄さん。2019年に急逝された吉岡さんの遺作ともいうべき1冊です。豊富に図版を掲載し、色の教養を知り、色の文化を眼で楽しめます。歴史の表舞台で多彩な色を纏った男達の色彩を軸に、源氏物語から戦国武将の衣裳、祇園祭から世界の染色史まで、時代と空間を超え、魅力的な色の歴史、文化を語ります。

協力/紫紅社

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