インタビュー・レポート

自ら志願して大役に挑戦。歌舞伎俳優・中村児太郎さんが挑んだハードル

『家庭画報』2020年1月号に掲載された特集「歌舞伎界の若き獅子たち」。そこでお伝えしきれなかった5人の歌舞伎俳優の皆さんの貴重なお話をお届けします。2015年の同企画にご出演いただいてから5年の間に経験したこと、実感したことなどを通して、それぞれの素顔を垣間見ることのできる素敵な機会です。

写真左から、中村児太郎さん、中村隼人さん(記事はこちら)、尾上右近さん(記事は2月18日公開予定)、中村壱太郎さん(記事は2月21日公開予定)、坂東巳之助さん(記事は2月25日公開予定)。

5人の若獅子たちが語る
“今”へと導いた3大トピックス
第1回 中村児太郎さん

『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』の「阿古屋(あこや)」を戦後に演じたことがあるのは、6世中村歌右衛門と坂東玉三郎さんだけでした。琴、三味線、胡弓を演奏するという高度な技術を必要とする大役を、中村児太郎さんは玉三郎さんと中村梅枝さんの3人で2018年と2019年12月の歌舞伎座公演にて2年連続で演じました。高いハードルに挑んだその気概について伺います。

2019年9月、歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の戸浪。

TOPICS1
シンガポールの公演で舞台作りを経験

古代祝祭劇『太陽の記憶~卑弥呼』は、父(中村福助)と指揮者で作曲家の菅野由弘さん、ヴァイオリニストの大谷康子さん、三味線奏者の常磐津文字兵衛さんの4人で企画なさった邦楽、洋楽、歌舞伎、舞踊が融合した壮大な作品です。2016年に東京のサントリーホールと札幌、福岡の3か所で上演し、おかげさまでチケットが完売するほどのご好評をいただき、その後、シンガポールにも招聘されました。

本来は父が務めるはずだった卑弥呼を僕が演(や)らせていただくだけでなく、この作品の創作にも携わり、多くを学びました。他ジャンルとのコラボレーション自体が初めての経験だったんです。このとき初めて照明について勉強しましたし、演出についても学ばせていただきました。

僕は歌舞伎座など、歌舞伎を上演する劇場にしか出演してこなかったので、サントリーホールのようなコンサートホールだと、どうすればお客さまに楽しんでいただけるのかを考えたことが、とても新鮮に感じました。限られた予算の中で収めることも舞台を作る上では必須条件なので、それも実践しました。これを機に、演出について学ぶために、いろんな舞台を拝見したり、本を読んだり、映画を観たりして、勉強させていただくようになりました。

TOPICS2
初役の雪姫で舞台復活した父と共演

2018年9月、歌舞伎座の秀山祭の『祇園祭礼信仰記』で、闘病していた父と久しぶりに同じ舞台に立つことができました。父が舞台に出られなかった5年間は、ふとした瞬間に“父がいない”ことに気づかされるという状況が続きました。

そんな僕の様子を見てくれているいろんな先輩方が、僕が父を必要としていることに気づいて手を差し伸べてくださったので、とても救われました。本当にありがたかったですし、逆に幸せな思いをさせていただけたので、皆さんに恩を感じています。この経験があったからこそ、いろんな方々と良好な関係を築くことができました。

病気になる前は毎月のように舞台に立って父ですが、復帰したとはいえ、いまだに4か月か5か月に1回という頻度です。舞台に立ちたいという父の思いは今なお強く、舞台に出演するために、日々頑張ってリハビリをしています。最近、父に似ているとよくいわれますが、自分では似せているつもりはありません。ところが、この間父を見て、確かに似ているなって思うことがありました。やっぱり、血がつながっているということなんですね。

TOPICS3
大役の阿古屋に自ら志願して挑む

僕は、時代物に取り組むことが歌舞伎役者に与えられた使命の一つだと思っています。新作に取り組むことも素晴らしいですが、(18世中村)勘三郞の伯父からも「お前は人の5倍は努力しないとダメだよ」といわれたように、僕は基礎をしっかりと築かなければない時期なのです。古典を演じるということは、今の僕にとって課題が多すぎて手が回らないほど。それをきちんとやることが、僕のすべきことなのです。

中村梅枝さんと僕は古典に出演する機会が多くて、お互いに頑張っただけの成果を出せるように取り組んでいます。梅枝さんとは『壇浦兜軍記』の阿古屋でもご一緒しました。僕がわからないことについて聞けば教えてくださるし、逆に梅枝さんから聞かれることもあって、古典に取り組む上でいい関係性だと思っています。

『壇浦兜軍記』は成駒屋に縁のある演目なのですが、祖父(7世中村芝翫)も父も阿古屋を経験していません。岡本町のおじさま(6世中村歌右衛門)が大事になさっていた作品でもあり、成駒屋の芸を継がせていただきたいという思いで、玉三郎さんに直接お願いしました。その結果、玉三郎のおじさまからご指導いただき、24歳で初役として勤めることが実現し、最年少記録を大幅に更新することにもなりました。阿古屋はもちろん、与えていただいた役の一つひとつにどれだけ真摯に向きあうかということが、僕のこれからの目標です。

中村児太郎/Kotaro Nakamura

1993年生まれ。父は9代目中村福助。2000年歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』の所化、『菊晴勢若駒』で、6代目中村児太郎を名乗り、初舞台。

市川海老蔵 特別公演

1月31日(金)~3月1日(日)
名古屋市・御園座、小松市・こまつ芸術劇場うらら、金沢市・金沢歌劇座、京都・南座、福岡・博多座で全国5か所で上演されます。
『羽衣』の天女と『勧進帳』の源義経で出演。
問い合わせ/
チケットWeb松竹 http://www1.ticket-web-shochiku.com/t/

撮影/篠山紀信

構成・文/山下シオン 協力/松竹

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