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【野村潤一郎先生の動物エッセイ「Q」を探せ!】私を熱狂させた“怪獣”と呼ばれる巨大な生物たち

2020.11.05

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スーパー獣医の動物エッセイ「アニマルQ」 将来獣医の道へ進むとは思いもせず、特撮ドラマの巨大生物たちに好奇心をかき立てられ、昆虫に夢中になった少年時代の野村先生。ところが今、その好奇心はとんでもないモノにまで……。一覧はこちら>>

第2回 「Q」を探せ!



第1回「犬と人のテレパシー通信」>>
アニマルQ

文/野村潤一郎〈野村獣医科Vセンター院長〉


「ピッピッポーン」

午後7時の時報と共に、白黒のブラウン管に“丸地に三角”の製薬会社の看板が映し出された。でも、これは番組提供会社のCMだからどうでもよい。次の瞬間が重要だ。

「ギッチョーン、ガッチョーン、ギイイイ、バッチーン」

古い鉄扉が軋むのに似た不気味な効果音と共に、水面に浮かんだ油のようなマダラ模様がグルグルと回転し、やがて5つの文字になる“ウルトラQ”。前代未聞のSFドラマのはじまりである。

1964年、円谷プロが製作したこの作品は、日常にいきなり突入してくる怪奇現象をテーマにしていた。基本的にパラレルなアンソロジーであり、毎週これでもかというくらいに摩訶不思議な事件が起こる。

魔術団で箱抜けを演じる少女が夜な夜な肉体から精神を分離させて街を彷徨い、人々を驚かせる話。現実世界に嫌気がさした男が、時間と空間を超越する異次元の列車に乗る話。

どれもワクワクするものばかりだったが、その中でも幼児期の私を熱狂させたのは度々登場する“怪獣”と呼ばれる巨大な生物たちだった。

こう進めると「大人になってもまだそんなこと言って」と思われてしまうかもしれない。

しかしウルトラQは高尚なSFであり、現代の怪獣番組のように子供に玩具を買わせるためのヒーローアイテムや、ママさんを熱中させるイケメン、パパさんが喜ぶ美女はなしだ。

登場するのはセスナ操縦士、その助手、そして新聞記者の女性。そしてここが肝心なのだが、白髪にカイゼル髭の博士。このいかにも権威のありそうな外観の専門家が何かの破片を調べて、「これは地球には存在しないチルソナイトという金属だ」とか言うと、突如アカデミックになり物語にリアリティが増す。

トンネル工事の最中に地下洞窟から目覚めた怪獣ゴメスの回も印象深かった。その手にしては小柄な身長10メートルというサイズ感は、寝ている時に壁を壊して部屋に入ってきそうで恐ろしい。

角と牙と爪で武装したこの凶暴な生物は、学名ゴメテウスといい、新生代第三紀に生息していた肉食性の原始哺乳類だという。地下洞窟は70キロ先の金峰山につながっていたが、そこにある洞仙寺に奉納されていた古文書によって、ゴメスにはリトラという天敵がいたことがわかる。

リトラの学名はリトラリアといい爬虫類と鳥類の中間的生物という説明である。なんと蛹のような形態で休眠することが可能であり、それらしき球体がゴメスが出現した場所で同時に発見されていた。

リトラは蛹から羽化(?)するとゴメスと戦う宿命らしい。口から強い酸を吐いて攻撃するが、しかしこれを使うと自身も内臓が溶解して死滅するに至る……という設定だった。

「怪獣番組の筋書きなんかどうでもいいわよ」と叱られてしまいそうだが、そっちではない。この番組の偉大さは、この回だけでも4歳児だった私をはじめ日本中の生き物好きの子供たちの脳に、学名、新生代第三紀、肉食性、原始哺乳類、天敵、その他もろもろの科学の言葉を何気なく記憶させたことにある。

見る側も興味があるから吸収が早く、例えるならば白い紙に鉛筆で書くというよりも、殴られて痛さを覚えるくらいの勢いでその世界に導かれたといってよい。

PTAは「グロテスクな怪獣は子供の美的感覚を狂わせる」と有害宣言をしたらしいが、当時の怪獣たちの外観には、無理矢理怖がらせる部分は見当たらず、生物学的に見てもバランスが良く、それどころか逞しく、むしろ美しかった。

空想の世界に酔い足元を見ないで空ばかり見ていたら、たしかにダメな大人になると思う。しかし生き物に興味を持った幼稚園入園前の私は、身の回りに棲む“足元を這いずり回る未知の怪獣たち”にも敏感になった。
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