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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】犬と人が共に暮らすということ

2021.03.25

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スーパー獣医の動物エッセイ「アニマルQ」 人と犬は太古に出会い、そして長い長い時間のなかでお互いの信頼関係を深めてきました。それまで別の世界で生きていた異なる生物種が、心を通わすようになるという奇蹟のような出来事。でも、もしかしたら今、犬の一族はこう思っているかもしれません。「こんなはずじゃなかった!?」一覧はこちら>>

第6回 犬と人が共に暮らすということ


イラスト/コバヤシヨシノリ

文/野村潤一郎〈野村獣医科Vセンター院長〉

高度経済成長時代の下町は活気に満ちていた。


大工場から出る煤煙で常に曇った鉛色の空。産業排水で銀色に染まり泡だらけの隅田川。朝から晩まで街中に響く建築重機の轟音。

カーン、プシュー! カーン、プシュー!

四方八方からビル建設のくい打ち音が響く。大通りは建材を運ぶダンプカーが行き交う。

ズシン、ビリビリ、ズシン、ビリビリ。

どこにいても常に地面が振動していた。

辺りがビニールの焼けたような臭気に満ちているのは、大半の家庭が小さな町工場を営んでいるためだ。皆がそれぞれの仕事をするわけだから様々な化学物質が大気中に充満しても仕方がない。苦情を言う者は誰もいない、普通に呼吸して自分の生業に勤しむだけだ。文句をタレても誰も聞く耳を持っていない。みんな忙しいのだ、要求を提示する資格は働いて成果を出してから、それが大前提だった。

今に比べてシンプルなこの時代は、誰もが自分の生きる場所で生まれて育って働いた。遠く離れた他人と己を比較して悩むこともなく、むしろ幸せだったと思う。たしかに街も人間も外側は薄汚れていたが、きっと心には美しい花が咲いていた。

その証拠に大人たちは自信満々で笑い、身体からは汗とタバコ、そして希望の匂いがした。

「子供は外で遊べ、大人になったら働け」

昔の大人はそう言ったが、これは生物学的に正しい。遊ばない子供は働かない大人になる。もしかしたら仕事の邪魔になるのでそう言って家からガキどもを追い払っていただけかもしれないが。

とにかく当時の子供たちは全身傷だらけでぶっ倒れるまで真剣に遊んだ。そして遊びの中から生きていくのに本当に必要な様々な知恵を学んだ。

現代に比べると良くも悪くもフリーダムだったが、それは各家庭で飼われている犬たちも同じだった。

当時の犬たちはオリに入れられたり鎖でつながれたりすることはなく、常に自由だった。

通常は家の中にいるが一人で勝手に出かけ、何らかの用事を済ませると普通に帰ってきた。つまり拘束されることがなく、人間と同等に好き勝手に行動する権利を持った真の意味での家族であり社会の一員だった。

街の住人もこれを許容していた。というよりも飼い犬がその辺をほっつき歩いていてもそれは当たり前のことであって、これについてとやかく言ったとしたら変人扱いを受けたと思う。犬たちが自由だから道端に犬の糞が落ちているのは日常の風景であり、「上を向いて歩こう」を歌っている時も下を向いていないと地雷を踏むことになった。その場合は「エンガチョつけたカギ閉めた」と叫んで隣の友人の肩を叩くことで、エンガチョ扱いを逃れることができるルールがあった。
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