きものの文様【自然（しぜん）】月や星、稲妻。日本人の美意識が伝わる、自然がモチーフの文様

今日の文様23
自然（しぜん）

きものや帯に使われている自然のモチーフには、月、星、雲（雲の文様の記事はこちら）、風景など、さまざまなものがあります。その中には、霞（かすみ）や雨、流水などのように、形としてとらえどころのないものまで図案化されており、日本人の美意識の奥深さを思わずにはいられません。これらの自然現象が文様として使われるようになったのは、飛鳥・奈良時代からといわれています。

原始時代から信仰の対象とされていた月や星、はっきりとした形のない稲妻など、自然文様を5種ご紹介します。

月（つき）

古くから太陽と月は信仰の対象となり、権威の象徴ともされてきました。日月（じつげつ）とは太陽と月の組み合わせをいいます。平安時代には天文や暦を占う陰陽道（いんようどう）が盛んになり、日月や星が図案化され、文様として使われるようになりました。とくに月は現在も帯などに多く用いられています。


魯山人（ろさんじん）の日月椀に見られる日月文様をモチーフにした名古屋帯。シンプルな美しさが魅力です。

【向く季節】
通年、秋

星（ほし）

平安時代は、中国の陰陽五行説と天文や歴史を占う陰陽道が盛んになります。陰陽五行説とは、万物は陰と陽の二元の変化で生成されるとする陰陽説と、木、火、土、金、水の五元素によって変化するという五行説を組み合わせたものです。

また、北極星を守るとされる北斗七星の信仰も起こり、星の文様化が進みました。七曜（しちよう）文や九曜（くよう）文などが生まれましたが、現在は星形をモチーフにした楽しい柄が主流です。

【向く季節】
通年、秋

稲妻（いなずま）

雷や稲妻を形に表した文様で、雷文（らいもん）とも呼びます。曲折した直線で表現されたものが多く、桃山時代以降の能装束に多く見られ、荒々しい役柄を演じる際に見につけたといわれます。

また、もうひとつの雷文は、渦巻を四角形で表現した中国古代の代表的な文様で、中国料理の器などにも見られます。

【向く季節】
通年、夏

武蔵野（むさしの）

初秋の集まりに
生成り色地にうっすらと月と芒を描いた控えめな帯。透け感のある素材に芒を散らした付下げで、物語性のある装い。

芒（すすき）に月を組み合わせた秋の風情を感じさせる文様を武蔵野と呼びます。関東平野の西部に位置する武蔵野は、高い山がなく、見渡せる原野の風景が好まれて歌枕（うたまくら。和歌に詠まれることの多い地名）とされました。

桃山時代には画題として流行し、江戸時代には小袖にも用いられました。月と芒の組み合わせが一般的ですが、芒野原だけのものや富士山を組み合わせたものも見られます。

【向く季節】
夏、秋

御所解き（ごしょどき）

結婚式に
紫の縮緬地に御所解き文様を染めた友禅の訪問着。七宝に色紙を織り出した袋帯と合わせたシックな装い。

江戸時代の貴族や上流武家の女性が着た小袖文様の一種で、明治時代以降にこの名がつけられました。茶屋辻（ちゃやつじ）文様より後に染められたもので、手描き友禅や刺繍で表現されます。

※茶屋辻文様とは、江戸時代に生まれた風景文様のひとつ。上流武家の女性が夏の正装に用いたもので、麻地に描かれた総模様を指す。モチーフとしては、水辺の風景や橋、家屋、樹木、草花が配される。

茶屋辻と比べると、庭に松、梅、桜、草花などが描かれ、伸びやかな流水や滝、御所の庭であることを物語る御所車や御殿、枝折戸（しおりど）・柴垣・東屋（あずまや）などが配置されています。現在も訪問着や染め帯に用いられています。

【向く季節】
通年

「#きものの文様」記事一覧はこちら