きものダイアリー

村治佳織さん自ら収穫した紫根から、志村洋子さんが世界に一つだけのきものを作る物語

2026.05.26

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志村洋子(染織家)×村治佳織(ギタリスト)響き合う“奇跡の紫”を求めて(前編)ギタリストの村治佳織さんに、紫のきものを着てほしい──。一人の紳士の願いから、世界に一つだけのきものが誕生しました。紬織の人間国宝・志村ふくみさんの娘である染織家の志村洋子さんが、植物のいのちをいただき、染め、織り上げる……。尊い紫の物語をお届けします。

「きものから新たなエネルギーをいただいているよう」──村治佳織さん

2026年3月、自分のために織られた紫のきものをまとった村治佳織さん。撮影場所は、アサヒグループ大山崎山荘美術館の庭園です。ここは今回のプロジェクトが誕生するきっかけとなった志村洋子さんの著書『鏡志村洋子 染と織の心象』で、村治さんの着装写真を撮影した場所。縁ある地で、村治さんのきもの人生の門出を祝福するような陽光が降り注ぐ中、気品漂う紫のオーラが装う人を晴れやかに包み込みます。

2026年3月、自分のために織られた紫のきものをまとった村治佳織さん。撮影場所は、アサヒグループ大山崎山荘美術館の庭園です。ここは今回のプロジェクトが誕生するきっかけとなった志村洋子さんの著書『鏡志村洋子 染と織の心象』で、村治さんの着装写真を撮影した場所。縁ある地で、村治さんのきもの人生の門出を祝福するような陽光が降り注ぐ中、気品漂う紫のオーラが装う人を晴れやかに包み込みます。

希少な紫根(しこん)を収穫し、いのちの色を、移しとる

「掘れた!」。満面の笑みで叫ぶ、ギタリストの村治佳織さんの声が、澄んだ青空に響きます。

2. 根を傷つけないように紫草を収穫する村治さんと宏さん。

根を傷つけないように紫草を収穫する村治さんと宏さん。

2025年11月──。村治さんの姿は、滋賀県東近江にありました。草木染めの染料となる紫根を収穫しに、永源寺近くの「游紫庵(ゆうしあん)」を訪れたのです。

1. 志村ふくみさんによって書かれた「游紫庵」。古商家に藍の暖簾が映えます。「地元のコミュニティを大切に、人が集う場所を作りたかった」と宏さん。ここでは草木染めのワークショップなども行っています。

志村ふくみさんによって書かれた「游紫庵」。古商家に藍の暖簾が映えます。「地元のコミュニティを大切に、人が集う場所を作りたかった」と宏さん。ここでは草木染めのワークショップなども行っています。

きっかけは、紬織の人間国宝・志村ふくみさんの娘である、染織家・志村洋子さんの作品集『鏡 志村洋子 染と織の心象』。村治さんの音楽活動を長く応援している会社経営者の大島芳孝さんは、2024年に上梓されたこの本で村治さんのきもの姿に強く心を打たれ、彼女に紫のきものをプレゼントしたいと申し出たのです。洋子さんは、それならば村治さんのために、永源寺の紫根で染めた唯一無二のきものを作ろうと提案。洋子さんの次男で、「しむらのいろ」を継承する染め師、志村 宏さんが草木染めの拠点としている游紫庵から、村治さんの紫のきものを制作するプロジェクトが始まりました。


3. 紫草は夏に小さな白い花を咲かせる多年草。冬に種をまき、そのまま1~2年間、寒い冬を越すことで立派な根に育ちます。

紫草は夏に小さな白い花を咲かせる多年草。冬に種をまき、そのまま1~2年間、寒い冬を越すことで立派な根に育ちます。

游紫庵の裏に広がる畑は、宏さんが現地生産者の方々と紫草の栽培に力を入れている場所。古くから日本各地で収穫された植物でしたが、現代では栽培農家が激減し、国産の紫草は入手自体が困難とされる絶滅危惧種。しかしこの地では、染色に適したよい紫草が育つため、宏さんは足繁く通い、ついに古商家を改装して染め場や機織り場を作り、游紫庵を開くに至ります。

染料となる根が太く大きく育つ永源寺の大地は、「紫が失われにくいので、本来の色が輝き出てきます」という宏さん。彼の指導で、村治さんは初めての収穫体験。大切な根を傷つけないよう、まわりからスコップで掘り起こし、丁寧に引っ張ります。

4.5. 収穫した根は丁寧に洗い、天日干し。煮出すと紫の色素となる「シコニン」が。椿の灰汁で媒染すると、美しい紫に染まります。

収穫した根は丁寧に洗い、天日干し。煮出すと紫の色素となる「シコニン」が。椿の灰汁で媒染すると、美しい紫に染まります。

収穫した紫草は根の部分をきれいに洗い、カットして天日干ししたものを煮出して使います。お湯で根をこすり合わせるうちに、根から紫の色素となる赤みのある「シコニン」がどんどん出てきます。

6. 括った糸は経糸に。色むらができないように、しっかりもみ込みます。

括った糸は経糸に。色むらができないように、しっかりもみ込みます。

右・生命力に溢れた、収穫したばかりの永源寺の紫根。 左・染めを体験した村治さん。白い糸がどんどん赤みを帯びていく様子に感動して。「永源寺の紫は最高」と洋子さんも微笑みます。

右・生命力に溢れた、収穫したばかりの永源寺の紫根。 左・染めを体験した村治さん。白い糸がどんどん赤みを帯びていく様子に感動して。「永源寺の紫は最高」と洋子さんも微笑みます。

いよいよ糸染め。糸をパンパンとさばき、煮出した液の中でゆっくりとまわしていきます。ボウルから取り出したら糸を洗い、光と空気に当てて。

7. 6で染めた糸は、何度も染めを繰り返すことで、ここまで濃い紫になります。

染めた糸は、何度も染めを繰り返すことで、ここまで濃い紫になります。


これを何度も繰り返すことで、赤く染まった糸が徐々に青みを帯び、紫になっていきます。「植物のいのちが、こうしてきれいな色になって糸に移るのですね」と村治さんは感動することしきりです。

(次回へ続く。)

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この記事の掲載号

『家庭画報』2026年06月号

家庭画報 2026年06月号

撮影/森山雅智 ヘア&メイク/久保木 純〈PARADISE WEST〉 園山絵里〈mii.to hair make〉 着付け/山﨑真紀〈やまさき組〉 撮影協力/アサヒグループ大山崎山荘美術館 セフティ フレッド 都機工房

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