

「歌舞伎界では、毎年柄を変えて浴衣を新調するのが慣わし。桜を見送った頃から、“その年”の浴衣の制作にとりかかります」と語るのは、松本幸四郎夫人の藤間園子さん。
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高麗屋の定紋である四つ花菱や、「松本」にちなんだ松葉模様──一門の揃いの浴衣は、稽古着はもちろん楽屋着として使います。
夏は素肌にまとい、袷(あわせ)の時季には浴衣を襦袢代わりに上からきものを重ねるなど、季節を問わず一年中手放せないそうです。
今回、藤間さんが訪れたのは、明治38年に栃木県宇都宮市で創業した「中川染工場」。高麗屋をはじめ数々の伝統芸能の家の浴衣や、手ぬぐいなどの染めを手がけてきました。
まずは、工場で歴代の型紙と対面します。幸四郎丈の浴衣と同じ図案の型を見つけると、「これまでの型をすべて保管しているのですね!」と藤間さんも感動ひとしお。
同じ図案で2つの型紙があることに気づくと、その違いを4代目の中川友輝さんが解説します。「一つのデザインで白地と紺地の2種類をご注文いただくことが多く、紗を貼った透かしのあるこちらの型紙は、白地に紺で柄を染めるためのものです」
中川さんの工場では、型を元にして生地に防染糊を置き、その上から染料を注ぐ、「注染(ちゅうせん)」という昔ながらの染めの技法を用います。
その工程で一番難しいとされるのは、一枚の長い反物の中で、柄が自然に繫がって見えるように防染糊を置く作業。特に高麗屋の浴衣のような格子や直線を用いたデザインは、型の継ぎ目が分からないように防染糊を置くのに熟練の技術を要します。
「一見シンプルなようで、すべての工程においてこんなにも手仕事が尽くされているのですね」と、藤間さん。日々見慣れた浴衣への愛着をいっそう募らせるのでした。
撮影/鍋島徳恭 着付け/伊藤和子 ヘア&メイク/森野友香子〈Perle〉 取材・文/樺澤貴子