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桜を呼ぶきもの揃えで、優しい記憶の中へタイムスリップ。内田也哉子の「衣(きぬ)だより」

2023.03.15

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母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」第6回 大切な人と眺めた景色や何げない会話など、年月を経た思い出の断片は時として鮮やかな記憶となって甦ります。希林さんの思い出を宿したきものや帯は、春風にのってどんな心象風景を也哉子さんのもとへ運んでくれたのでしょう。胸の奥にそっとしまわれていた母と娘のエピソードとともに、穏やかな季節を迎える歓び溢れる装いをお届けします。前回の記事はこちら>>
桜を呼ぶきもの揃えで、優しい記憶の中へタイムスリップきものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。

内田也哉子さん(うちだ・ややこ)
1976年、東京生まれ。文筆業。夫で俳優の本木雅弘氏とともに3児を育てる。著書に『会見記』『BROOCH』(ともにリトルモア)、『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)、中野信子さんとの共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『新装版 ペーパームービー』(朝日出版社)など多数。最新刊は『点 きみとぼくはここにいる』(講談社)、『うみ』(岩波書店)。NHK Eテレ『no art,no life』(日曜8時55分)にて語りを担当。

はなびらと鉛 ── 内田也哉子


桜の咲く頃になると、思い出すシーンがある。


それは18歳の春、母と二人で言葉数少なに歩いた満開の桜並木。当時、スイスの高校で学んでいた私は、一年のうち春夏冬の長い休みになると、東京とジュネーヴの間を行ったり来たりしていた。けれど、その日は東京を出発する私の行き先が、いつもと少し違っていた。お付き合いをしていた現在の夫との初めての旅、セイシェルの島へ出かけるのだった。もちろん事前に母の了解は得ていたものの、空港へ向かう日の朝、

「ちょっとだけまだ時間あるでしょ、近所の桜見に行かない?それにもう、あなたも今年の桜が見れるのは、これで最後だから」

と、めずらしく散歩に誘われた。でも春の陽気と相反し、いつになく二人とも妙にかしこまり、ひたすら無言で歩きつづけた。幼い頃から何度もひとり娘を海外に送り出してきたはずの母の空気は、明らかにいつもと違っていた。

決して、不安そうなわけでもなく、どこか落ち着きはらっているのだ。今でも心に残るのは、淡い桜色のはなびらが舞い散る木々の連なりと、鉛のようにずっしりとした沈黙だけ。思えば、あの日、母は親としての役目を終え、子どもの私に別れを告げたのかもしれない。

巾着と香袋桜の刺繡帯を巾着に仕立て替え、桜の縮緬細工は琴爪入れから香袋へと用途を変えて愛用。古きよき時代のエスプリを、希林さん流に楽しんでいた様子がうかがえます。
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