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遠き日の記憶を羅針盤に、帆船の帯で心の旅を 内田也哉子の衣(きぬ)だより

2022.09.15

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母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」第4回 海外で学生生活を送った内田也哉子さんにとって夏は、“卒業”という人生の節目を感じさせる季節。暑さを見送る頃には、大人への階段を上ったような誇らしさと、寂しさが複雑に同居するのでしょう。今回は、大正時代に設立された女学生のための学び舎で、“夏の匂い”が手繰り寄せた家族の心模様に思いを馳せ、受け継がれた薄絹をまといます。前回の記事はこちら>>
遠き日の記憶を羅針盤に、帆船の帯で心の旅をきものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。

内田也哉子さん(うちだ・ややこ)
1976年、東京生まれ。文筆業。夫で俳優の本木雅弘氏とともに3児を育てる。著書に『会見記』『BROOCH』(ともにリトルモア)、『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)、中野信子さんとの共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『新装版 ペーパームービー』(朝日出版社)など多数。また、映画『流浪の月』にも出演。

セレモニーの夜明け ── 内田也哉子


四半世紀と3年前、私はスイスの高校を卒業した。あれは夏の匂いが迫るころ。到底信じがたいことが起きた。 それまで一度も、私の学校に近寄ることさえなかった父と母が、卒業式に参列するため、遥々ジュネーヴへやってくるというのだ。


それどころか、人生で一度も同じ屋根の下で寝たことのない父が、別居中の母と共に訪れ、式の後まるで普通の家族のようにベネチアとパリを一緒に旅して回るという。 それなりに頑張った私の高校生活を飾るはずの有終の美などいっぺんに吹っ飛び、迫りくる未知なる一家団欒に私は恐れおののいた。

スイスの高校に留学していた也哉子さんの卒業式でのワンシーン1994年、スイスの高校に留学していた也哉子さんの卒業式でのワンシーン。「きものはトランクにペタッと何枚も入るし、現地の人が喜んでくれるから」と、希林さんは旅行の間中きものだったとか。

一週間ほどの旅の間、父と、母娘は、二部屋に分かれ寝泊まりしたものの、それまで生きた18年間で共に過ごした時間を集計しても、なお足りないくらい濃縮した時を共有することに。 当然、緊張のあまり、ひと時も休まることなく、なんだか「家族の風景」という舞台のリハーサルを終始しているようだった。母はいつも通り、欧州の街中にまるでタイムスリップした昔の日本人のように、一貫して着物姿で過ごした。

おまけに旅の終わりに私は、父に偶然紹介してもらった人と、結婚を前提にお付き合いしていることを伝えることとなった。その時の父の動揺ぶりは、ともすれば私以上に父にとって初めて親子の真実を突きつけられた瞬間だったのかもしれない。報告を終え、現実味を帯びはじめた一寸先の私の未来には、既に決まっていたパリでの「大学生活」と同時に、「結婚」という蜃気楼が立ち現れた。
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