茶箱あそび

茶箱を持って自転車でお出かけ ふくいひろこ「京都発 茶箱あそび、つれづれ」2月

〔連載〕京都発 茶箱あそび、つれづれ 京都在住のふくいひろこさんが、ひと組の茶箱を通して、ときには京都の歳時や工芸を味わい、ときには茶を点てる場所を変えて、日常に抹茶を楽しむ具体例をお伝えします。一覧はこちら>>

2月
現代作家の器で組む

立春の頃になると、陽光がやわらかになり、少し外出しようという気分になってきます。そんな時はお気に入りの道具たちを組み、トートバックに入れて、知り合い宅まで自転車でひと走り。京都の町は程よいサイズなので、自転車で動くのがいちばん便利です。

我が家から自転車で10分ほどのところにあるセレクトショップ「Yggd(ユグド)」は、ヨーロッパのアクセサリーや、インドの工房で製作したオリジナルの服などを扱うお店。古い町家を改装した素敵な空間です。友人でもあるオーナーの戸川富美子さんに、「これから茶箱を持って行きまーす!」と連絡を入れ、茶箱が入ったトートバックを自転車の荷カゴに載せて出発です。

よそ行きの茶箱は道具が動かないように詰めるのがコツ。ぴたっと収まるとヤッター!という気分に。

向かう途中、和菓子屋さんに立ち寄って本日の茶菓子を入手。あとは訪問宅でお湯と皿をお借りして、抹茶一服タイムを楽しもうという魂胆です。前からそういうあそびに付き合ってくださる戸川さんは、テーブルにポットと菓子皿を用意してくれていました。私もバッグから茶箱を取り出し、おしゃべりしながらお茶の準備を始めます。

テーブルの上に道具を広げて準備。

今回のひと箱は、現代作家や職人さんの作品で組んでいます。茶箱は京都の指物師さんに特別に作ってもらった神代杉(じんだいすぎ)の箱。中の器は箱に合わせて、それぞれのサイズを指定しました。茶道具を専門とする作り手ではありませんが、私が茶箱に組むのだと言うと、みなさん面白がって付き合ってくださいました。

茶器は松島巌さんのガラス器、菓子器は新宮州三さんの漆器。ほぼ同じサイズで作っていただいたので、時にはその役割を入れ替えて使います。

茶箱を外に持ち出す場合、道具類をどうやって保護するかに心を配ります。仕覆(しふく)があれば上等ですが、持ち合わせがなければ、木綿布を重ねて作った包み布や、ヘダテの代わりに古帛紗(こぶくさ)を使って道具を守ります。自転車に乗って移動するので、ともかく箱の中できっちりと、道具たちが動かないように詰めてゆきます。茶箱もしっかりと包みます。

上から茶器、茶碗1、茶碗2、建水(けんすい)。重ねたときに互いに傷つかないように、間に布を重ねていく。

Yggdの戸川さんとは数年前に一緒にインドを旅しています(というより、私がくっついていった感じですが)。仕事で度々インドへ足を運ぶ彼女と、時折インドに呼ばれる私。服飾のプロである彼女と、あくまで茶箱あそびに使えるものを探す私。インドに行っても視点も探し物も異なる2人です。

茶碗もピンク。白いガラスの茶器にはレースのような繊細な文様が描かれる。

今日の布は戸川さんとインドを旅したときに見つけた更紗や手織りの絹織物。道具も布も春らしく、ピンクを基調に合わせてみました。更紗の包み布は、お茶を点てるときの点前盆代わりにも使います。

古帛紗もインドの手織りの絹。

この日は節分だったので、生菓子は亀末廣の「福豆」。そしてもう一軒、大極殿に立ち寄ってそら豆味の州浜「まめまめ」を求め、菓子器に詰めました。

亀末廣の「福豆」(左)と、大極殿の「まめまめ」。菓子の色も偶然、この日の道具組の色が合って嬉しい。

戸川さんが店内を飾るため、昨日買ってきたという花の中に、エンドウ豆の蔓があり、「豆づくしですねえ」と笑いながら、テーブルに飾ってくれました。示し合わせたわけではないのに、こんなふうに気が合うのも愉快です。その場で起こる偶然の出来事も茶箱あそびの楽しみの一つ。知人宅や屋外の“茶室”には、自分の思惑を超えて、その時だけのしつらいが生まれます。

茶席の花はエンドウ豆の蔓。季節の花、やっぱりいいな、春が来たなあ、と感じるひととき。

・Yggd(ユグド) http://yggdkyoto.com/

ふくいひろこ

水円舎主宰。

京都市生まれ。茶道周辺や京都関連本の編集者をつとめながら、自身の趣味として茶箱であそぶこと20余年。茶道具のみならず見立ての道具をふんだんに使い、日常で楽しむお茶を提案。道具を集めるのに飽き足らず、理想の茶箱道具を知り合いの作家や職人にオーダーするうちに、オリジナル茶箱の作品群が生まれ、時折展示会なども行っている。
●水円舎ホームページ https://suiensha.com

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ふくいひろこ「京都発 茶箱あそび、つれづれ」

文・写真/ふくいひろこ

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