茶箱あそび

お茶をもてなすことの意味を改めて考えた、心に残る茶会。ふくいひろこ「京都発 茶箱あそび、つれづれ」10月

〔連載〕京都発 茶箱あそび、つれづれ 京都在住のふくいひろこさんが、ひと組の茶箱を通して、ときには京都の歳時や工芸を味わい、ときには茶を点てる場所を変えて、日常に抹茶を楽しむ具体例をお伝えします。一覧はこちら>>

10月
茶箱で楽しむ「王朝の美」茶会

今月は少し趣向を変えて、昨年10月に開催された家庭画報特選『きものSalon』による茶箱茶会のことに触れようと思います。

1年前の今頃、京都国立博物館では「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」が催され、貴重な歌仙絵が一堂に会していました。それにちなみ、きものSalon編集部の方々が、同館の茶室「堪庵(たんあん)」で、王朝の美をテーマにお茶会を企画されたのです。ご縁をいただき、亭主の大役を仰せつかる次第となり、忘れがたい佳き日の10月22日に、晴れやかなきもの姿の客人をお迎えすることとなりました。

2019年10月22日といえば、天皇陛下の「即位礼正殿の儀」が執り行われた日。前日は大雨でしたが、当日は朝からきらきらと光が射し、あたりの空気はしっとりと潤っていました。

このタイミングで、「王朝の美」のテーマをいただいたのですから、自身ができる限りの、京都らしくそして自分らしいおもてなしをしようと準備万端。京都に生まれ育ったこともあって王朝文化への憧れは強く、以前から有職(ゆうそく)にまつわる道具を少しずつ集めていたことも幸いしました。

まず待合には、友人であり、わたしが主宰する「水円舎」の茶箱の装飾にも関わってくれている大和絵師の林美木子さんの檜扇を掛けました。

五節舞で使われる舞扇を待合に。

檜扇にもいろいろな種類がありますが、これは「大翳(おおかざし)」といって、舞楽「五節舞」の時に舞姫が持つ扇。五節舞は、天皇が即位された年の新嘗祭にだけ舞う曲目ですので、このタイミングにはまさにうってつけかと。

本席の床のしつらいは、開催中の展覧会に合わせて歌仙切(かせんぎれ)を掛けました。

三十六歌仙の一人、源宗于の歌仙切。

源宗于(みなもとのむねゆき)の「ときはなるまつのみどりもはるくれば いまひとしほのいろまさりけり」という一句。本来は春の歌ですが、この日は特別な晴れの日でしたし、「常盤なる」という文言もあるおめでたい句ですので、使わせていただくことにしました。中廻しが桃山時代の能装束裂という華やかさも、『きものSalon』のお客さまには喜んでいただけたようです。

茶箱は利休好みの菊置上桐茶箱。わたしはこの菊置上の意匠がたまらなく好きで、振出もお揃いです。

この日のひと箱は菊尽くし。箱の白い木地と茶碗の重厚な感じのコントラストがお気に入り。

清々しい木地の箱に白い胡粉を盛り上げた古風な技法ですが、どこかモダンなイメージもあります。ふだん着の茶箱あそびにはちょっと使えないとっておき、晴れの日にふさわしい贅沢なひと箱です。

主茶碗には、江戸時代のお茶好き殿様であった松平不昧(まつだいらふまい)公の御庭焼を組みました。胴には不昧公の紋所とわかる葵紋が一つ捺されています。

茶器は時代の菊尽くしの中棗で、今回のひと箱は菊重ねの趣向。茶杓は格の高い象牙にとも思ったのですが、こんな日は華やかに徹しようと、現代作家の金箔張りの木製蓮弁形を用いることにしました。

茶会に来てくださったお客さまには、正客だけではなく皆さまに同じようなおもてなしをしたいと思いました。正客、次客の茶碗は時代のあるものを用い、三客以降は京都らしい茶碗で一服差し上げたいと、粟田焼窯元の安田浩人さんの品を使いました。

飾り置きした道具類。並べたときのバランスを考えて道具を組み合わせてゆくのがいつも楽しい。

粟田焼は御所にもゆかりのある焼き物で、独特の色合いを持つやわらかな陶土に繊細な絵が施されています。この日の茶碗は京の歳時記を描いたものやおめでたい柄などさまざま。どれも主茶碗として使えるものです。仕舞い茶碗には鳳凰の絵が描かれた華麗なものを使い、飾り置きしました。

道具も大事ですが、お茶はやはり菓子が大きな楽しみとなります。そこでテーマに合わせて継色紙(つぎしきし)をイメージしたきんとんを用意しました。

細かいそぼろのきんとんは「とま屋」製。

東山の若王子にある「とま屋」のもので、3色のやわらかな色合いのそぼろの上に金粉がかかった、この茶会オリジナルの品です。とま屋さんは、女主人がお一人で作っていらっしゃる小さなお店ですが、どの菓子も美しく優しい味。時代のある黒根来、織部や呉須赤絵などの菓子器のどれにも映えて、この日限りの取り合わせを、わたし自身も楽しみました。

またこの茶会にいらしたお客さまの目を喜ばすために、きものSalon編集部が、京絞り寺田の寺田豊さんに特別な染め帯をオーダーされていました。

絞り染め作家・寺田豊さんの染め帯。細かい技法がぎっしりと詰まりながらもさらっと美しい。

扇形に抜かれた中に絞りの繊細な意匠と仮名書きの和歌。三十六歌仙の斎宮女御や大伴家持にちなむものです。客人が茶会で最初に足を運ぶ寄付に飾られて、雅な世界へと誘います。

このような広がりのある世界観のお茶会は、やはりきもの雑誌の編集部ならでは。亭主役として、晴れの日の大きな企画に参加できたことに感謝するばかりです。

茶会の舞台、京都国立博物館の茶室の「堪庵」。雨上がりの清々しい一日だった。

実はこれほど大きなお茶会の亭主を務めさせていただいたのは、初めてのこと。ふだんからお茶を楽しみたいために茶箱であそんでいますが、それは顔の知れた友人知人たちとのひととき。このような茶会では、わたしはすべての方を存じているわけではなく、お人柄もお好みも知りません。

そんな方々に果たして満足のいくお茶をお出しできるだろうか。悩みをある禅の老師にお話ししたところ、「相手のことがわからなくても、臆することなく、あなたらしく。それでいいのです。客が誰だろうが、お茶を通してあなたの中にある何かが伝わるのだから」とお言葉をいただきました。

そうか、そうだな。わたしはわたしのお茶をする。それがふだんのお茶でも、大勢の客をお招きするお茶でも。そんなことに思いを至らせる貴重な機会をいただいた大切な一日でもありました。

ふくいひろこ

京都市生まれ。茶道周辺や京都関連本の編集者をつとめながら、自身の趣味として茶箱であそぶこと20余年。茶道具のみならず見立ての道具をふんだんに使い、日常で楽しむお茶を提案。道具を集めるのに飽き足らず、理想の茶箱道具を知り合いの作家や職人にオーダーするうちに、オリジナル茶箱の作品群が生まれ、時折展示会なども行っている。
●水円舎
ホームページ:https://suiensha.com
Instagram:@suiensha

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文・写真/ふくいひろこ
写真/沼知りえこ

 

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