きものの文様

きものに施された美しい「文様」。そこからは、季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、古来の社会のしきたりを読み解くことができます。夏の文様を中心に、通年楽しめるものや格の高い文様まで、きもの好きなら目にしたことがあるであろう定番の文様を36種類集めました。文様の意味や歴史を、コーディネート例とともにご紹介します。
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きものの文様
【鉄線(てっせん)】
花や葉、蔓の曲線が優美な初夏の意匠
初夏に白や紫の花を咲かせるキンポウゲ科の落葉蔓草で、鉄線花ともいいます。しっかりとした蔓が印象的ですが、その堅い蔓がまるで鉄の針金を思わせるところから、この名がついたとされます。続きはこちら>>
【鶴(つる)】
誰もが知る吉祥の象徴
鶴や亀の文様がめでたいときに用いられることは、日本人なら誰もが知っていることではないでしょうか。鶴は中国では1000年生きるとされ、瑞鳥(ずいちょう)の1種として崇拝されてきました。続きはこちら>>
【紫陽花(あじさい)】
『万葉集』にも見られる花は浴衣や趣味のきものに
「紫陽花の八重(やえ)咲く如くやつ代(よ)にをいませ我が背子(せこ)見つつしのばむ」の歌は、幾重(いくえ)にも咲く紫陽花の花のように、愛しい人が末永く繁栄することを願ったもの。続きはこちら>>
【菱(ひし)】
平安時代に公家装束の有職文様となった代表的な幾何学文様
4本の斜線によって囲まれた菱形は、連続すると斜め格子や襷(たすき)文様などと呼ばれます。池沼に自生する水草、菱の実の形を文様化したものとの説もあり、縄文時代の土器に刻まれるなど、古くから文様として使われたことがわかっています。続きはこちら>>
【瓜(うり)】
6つの瓢箪(ひょうたん)で「無病息災」を願う
瓜文は、形のおもしろさから図案化されやすく、葉や蔓(つる)とともに、さまざまに表現されてきました。能装束や小袖にも用いられ、江戸時代の狂言装束に、夕顔と片輪車を大胆に染め出したものが見られます。続きはこちら>>
【楽器(がっき)】
貴族の教養であり、物事が「良く成る」たとえにも
太鼓、琴、笛などの楽器は、音色が美しかったり、大きく鳴り響いたりします。それが神に伝えるためのよい方法とされ、それらの楽器を記して、物事の「良く成る」たとえとしました。能装束などの衣装に楽器が多く使われているのは、そうしたいわれによるものです。続きはこちら>>
【熨斗(のし)】
鮑の肉を薄くはぎ、伸ばして乾燥させた「のしあわび」が語源
熨斗は、もとは鮑(あわび)の肉を薄くはいで引き伸ばして乾燥させた「のしあわび」のことです。延寿を象徴するものとして、細長く折りたたんだ熨斗紙の間に包み、結納品や進物、引き出物に添えられました。続きはこちら>>
【沢瀉(おもだか)】
槍にも似た葉の形から武家に好まれた夏の文様
沢瀉は水田や池、沼などに自生する多年草です。夏から秋にかけて、3弁の白い花を咲かせます。葉脈が高く浮き出ているために、「面高(おもだか)」と名づけられました。続きはこちら>>
【扇(おうぎ)】
繁盛・開運の吉兆を示す「末広がり」の形
高温多湿の日本で生まれた扇は、広げると末広がりになることから、繁盛・開運の吉兆とされます。形状のイメージから、またの名を「末広(すえひろ)」といいます。続きはこちら>>
【魚(さかな)】
中国では富と幸福のシンボル。子孫繁栄の吉祥文様
中国では魚を「ユィ」と発音し、「有余(有り余る)」と同じ発音であることから、富と幸福のシンボルとされてきました。また、魚はたくさんの卵を産むため、子孫繁栄の吉祥文様として扱われてきました。続きはこちら>>
【宝尽くし(たからづくし)】
宝尽くしの“宝”、いくつ言えますか?
宝尽くしとは、いろいろな宝物を並べた縁起のよい吉祥文様です。もともとは中国の文様で、中国の吉祥思想のひとつ「八宝(はっぽう)」や「雑八宝(ざつはっぽう)」に由来します。それが室町時代に日本に伝わり、日本風にアレンジされて宝尽くし文様となりました。続きはこちら>>
【雲(くも)】
空に漂う「雲気」や「瑞雲」は吉祥のあらわれ
古代中国では、雲から万物が形成されたとされ、空に漂う雲を「雲気(うんき)」や「瑞雲」と名づけ、吉祥とみなしました。続きはこちら>>
【鴛鴦(おしどり)】
夫婦の変わらぬ愛を象徴する吉祥文様
日本では仲のよい夫婦のことを、おしどり夫婦といいます。それと同じように、鴛鴦は仲睦(むつ)まじいことから、中国では夫婦の変わらぬ愛を象徴する鳥とされてきました。雄(おす)を鴛、雌(めす)を鴦といいます。続きはこちら>>
【割付(わりつけ)】
同じ文様が連続する「割付」の代表4種
割付文様とは、文様を構成する方法のひとつです。同じ文様を上下左右に連続させ、規則的に繰り返して一定面積の中に割り付けます。単純な文様ですが、一面に割り付けられたさまは美しく、きものや帯、白生地の地紋、帯揚げ、風呂敷、草履の鼻緒など、さまざまな和の意匠に使われています。続きはこちら>>
【龍(りゅう)】
天に昇って雨を降らす、古代中国の想像上の動物
龍は鳳凰(ほうおう)とともに、古代中国で作り出された想像上の動物で、天に昇って雨を降らすと信じられました。その姿は、数種の実在の動物を組み合わせて作られており、角は鹿、頭は駱駝(らくだ)、爪は鷹(たか)をモチーフにしたとされています。続きはこちら>>
【器物(きぶつ)】
鈴に几帳、八橋など。道具をモチーフにした器物文様6種
扇(おうぎ)や文箱(ふばこ)、楽器など、あらゆる道具類や生活用具を文様化したものを器物文様といいます。それらは形が美しく、古くからきものや帯に数多く用いられてきました。続きはこちら>>
【舟(ふね)】
島国になじみ深い船の文様は室町・桃山時代に登場
海に囲まれている日本は、漁などを通して古くから舟とかかわりと持ってきました。それだけに、舟の文様はなじみのあるもので、種類も多彩です。舟が工芸品や染織品の文様として登場するのは、室町・桃山時代以降です。続きはこちら>>
【正倉院(しょうそういん)文様】
歴史と格式ある、奈良時代ゆかりの文様
正倉院は奈良時代に建立された、東大寺の大蔵(朝廷の倉庫)です。中には、聖武(しょうむ)天皇ゆかりの品々が数多く残されています。西アジア(ササン朝ペルシャ)や中国からもたらされたものが多く、国際色にあふれているのが特徴です。続きはこちら>>
【麻の葉(あさのは)】
平安時代の仏像装飾にも見られる歴史ある割付文様
6個の三角形を組み合わせ、それを四方に繋ぎ合わせたもので、形が大麻の葉に似ていることから、この名がつけられたといわれます。文様そのものは古くからあり、平安時代の仏像にも截金(きりかね)技法による装飾が見られます。続きはこちら>>
【鹿(しか)】
神の乗り物であった聖獣
鹿は延命長寿を表すといわれ、古くから絵画のモチーフなどに使われてきました。奈良の春日大社や広島の厳島(いつくしま)神社では神鹿(しんろく)と呼ばれ、神の使いとして崇められています。続きはこちら>>
【夏の植物】
涼やかに装いたい、葦(あし)・酸漿(ほおずき)・百合・芭蕉(ばしょう)
四季のはっきりしている日本では、古くから四季折々に咲く植物や草木がきものや帯の文様に取り入れられてきました。大正以降は西洋の花も加わって、きものや帯の文様は一層華やかさを増します。夏の装いで軽やかに楽しみたい、4種の植物の文様をご紹介します。続きはこちら>>
【朝顔(あさがお)】
ひとときの美を愛でる、日本ならではの美意識が光る花
平安時代に中国から伝えられた朝顔は、もともとは薬用としてその種を下痢に用いたとされています。江戸時代になると、観賞用として盛んに作られるようになり、櫛(くし)や手ぬぐい、団扇(うちわ)、きものなどの文様としても登場します。続きはこちら>>
【自然(しぜん)】
月や星、稲妻。日本人の美意識が伝わる、自然がモチーフの文様
きものや帯に使われている自然のモチーフには、月、星、雲、風景など、さまざまなものがあります。形としてとらえどころのないものまで図案化されており、日本人の美意識の奥深さを思わずにはいられません。これらの自然現象が文様として使われるようになったのは、飛鳥・奈良時代からといわれています。続きはこちら>>
【鱗(うろこ)】
魔よけや厄よけの意味も。古代より世界各地に見られる文様
単純で描きやすいことから、古代より世界各地に見られます。日本でも古くは古墳の壁画や埴輪(はにわ)などの文様があります。続きはこちら>>
【名物裂(めいぶつぎれ)文様】
インドや東南アジアに由来する、茶の湯ゆかりの文様
茶の湯の世界では、わび茶の大成者である千利休(せんのりきゅう)など著名な茶人が名品と認めた道具を名物(めいぶつ)と呼びます。名物裂(めいぶつぎれ)とは、これらの茶器の仕覆(しふく)や袱紗(ふくさ)などに用いられた裂(きれ)のことです。続きはこちら>>
【青海波(せいがいは)】
名前の由来は雅楽の装束。水面の波頭を表現した文様
雅楽『青海波』の装束に用いられていたことから、この名がついたとされています。『源氏物語』の紅葉賀(もみじのが)の帖にも、源氏が「青海波」を舞う情景が描かれています。続きはこちら>>
【雪(ゆき)】
夏に雪の文様が使われるのは、日本人ならではのならわし
古来、大雪が降った年の春は、雪解け水が豊富に出るため、稲作が順調で豊作になると信じられていました。『枕草子』には、平安時代の宮中では、大雪の日に庭で歌を詠み、参加した人々に褒美を与えたことが記されています。このように、雪は清らかでめでたい冬の風物とされてきたのです。続きはこちら>>
【唐草(からくさ)】
ギリシャの文様パルメットから発展したといわれる植物文様
蔓(つる)草がからみあって曲線を描いていく文様で、草だけでなく花や果実をあしらったものもあります。この文様はもとは遠くギリシャやローマの連続文様パルメット(棕櫚〈しゅろ〉の葉をモチーフに考案された唐草文様)から発展したとの説もあります。続きはこちら>>
【秋草(あきくさ)】
はかない風情に美しさを見出す、日本ならではの文様
秋草が寄り添うように咲いているさまは風情があり、移ろいゆく時のはかなさや人生の無常観を感じさせてくれる日本ならではの文様です。続きはこちら>>
【松(まつ)】
平安時代から伝わる、いわずと知れた吉祥文様の代表格
古代中国では、風雪に耐えながら1年中緑色を保つ松は、長寿の象徴とされました。また、理想郷である蓬来山(ほうらいさん。東方の海中にあり、不老不死の仙人が住み、俗人は近づけないとされる)に生えると考えられたため、吉祥文様でもあります。続きはこちら>>
【笹(ささ)】
竹と同様に古来からめでたいとされてきた植物文様
笹は、竹と同じイネ科の植物ですが、竹ほど背は高くならず、茎もかなり細いのが特徴。竹と同様、めでたい文様として、古くから礼装用のきものや帯に使われています。続きはこちら>>
【梅(うめ)】
逆境に耐える、人生の理想を象徴する花
梅は中国原産の花木で、奈良時代初期に日本にやってきました。厳寒の中で、ほかの花に先駆けて咲く香り高い梅は、中国では逆境に耐える人生の理想とされ、日本でも『万葉集』に多く詠まれ、縁起のいい花として愛好されてきました。続きはこちら>>
【紅葉(もみじ)】
紅葉を観賞するようになったのは平安時代頃から、とご存じでしたか?
紅葉を観賞するようになったのは平安時代頃からで、それ以前の奈良時代には黄葉(おうば)に映える美しい山並みを眺めていたようです。それが色づく楓の葉を愛でるようになったのは、紅葉を見て夏に疲れた体に生気を取り込もうとする、中国の思想が伝わったからとの説があります。続きはこちら>>
【菊(きく)】
長寿を象徴する所以(ゆえん)は古代中国の伝説などから
奈良時代から平安時代にかけて、中国から伝えられた菊は、長寿を象徴する代表的な植物です。それは、中国の黄河(こうが)源流に有る菊の群生地から流れ出た水を飲んだ里人(さとびと)が延命を得たという「菊水」の伝説や、菊の露が滴(したた)った渓流の水を飲んで長命を得たという能楽の『菊慈童(きくじどう)』の伝説などによるものです。続きはこちら>>
【吹き寄せ(ふきよせ)】
曲名や菓銘にも使われる、日本的な風情の文様
いろいろなものを寄せ集めたさまを吹き寄せといい、風景文様のひとつとして、古くから多種多様に用いられてきました。きものの場合は、さまざまな木の葉や花が風に吹かれて、寄せ集まったところを文様化したものです。続きはこちら>>
【橘(たちばな)】
不老不死の理想郷に自生する、長寿を招く植物
古代日本の橘は蜜柑(みかん)のことです。『古事記』には不老不死の理想郷である「常世(とこよ)の国」に自生する植物と記されており、橘は長寿を招き、元気な子どもを授かると信じられてきました。続きはこちら>>
きものの文様
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができます。きものを着る場合判断に迷う格と季節が表示され、こんな場所にお出かけできます、とのコーディネート例も紹介しています。見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
