〔特集〕今、世界が注目する気鋭作家50 新「うつわ」名鑑 世界で唯一無二の「うつわ」大国、日本。伝統を受け継ぎながらも、工芸とアートの境界を軽やかに行き交う気鋭の作家たちが、今、新たな価値観を創出しています。伝統と革新が交差する現場で、次世代の器づくりに挑む作家たちの創作への思いと、その先に見据える未来に迫ります。
・
特集「新『うつわ』名鑑」の記事一覧はこちら>>>
菊池ビエンナーレ、注目の作家
菊池寛実記念 智美術館が主催する公募展「菊池ビエンナーレ」は、陶芸の既成概念を超える数多くの作家を発掘してきました。最新回の大賞受賞作家をはじめ、受賞経験をもつ、圧倒的な個性で新風を吹き込む気鋭の作家たちをご紹介します。
自然の情景を映す金銀彩
高橋朋子(千葉・八街)
直線や弧、波にギザギザ、あるいは四角。高橋朋子さんの作品は連続する幾何学模様が主要なモチーフです。「具体的なイメージはなく、手を動かしているうちにリズムが生まれます」。
素材と技の可能性を究め、個性を研ぎ澄ます白磁と金銀彩の融和が特徴の高橋朋子さんの作品。厚みのある箔「上澄」を複数種使うことで立体的な模様に。金銀彩盌「游(およ)ぐ月」(径10.5×高さ7.3センチ)、金銀彩水指(みずさし)「游ぐ月」(径16×高さ23センチ)。
5種類の形を感覚の赴くままに貼り付けていくと自然とリズムが生まれる、と高橋さん。
単純な図形の繰り返しなのにどこか神秘的に見える幾何学模様は、高橋さんの原体験に繫がっています。
故郷・北海道のアイヌ文化や陶芸を学んだ沖縄の民俗文化に触れ、模様にはそれぞれ意味や世界観があると知ったこと。さらに遡れば、幼い頃夜空に浮かぶ月に不思議と惹かれたこと。やがて月に心を映す窓のようなものを感じるようになり、その心象を幾何学模様によって表現するに至りました。
初夏の緑に金銀彩で光を表した「翠光彩盌 翠巒(すいらん)」(径10×高さ7センチ)7万7000円 「銀彩蓮皿五寸」(径15×高さ2.8センチ)8250円 「銀彩台皿」(径30×高さ1.5センチ)3万3000円
高橋さんは箔よりも厚みのある上澄(箔に打ち伸ばす前の素材)を使い、しかも独自に加工した複数種の上澄を貼って幾度も焼成を重ねます。こうして表れた金銀の濃淡が景色に奥行きをもたらします。
施釉した上に貼った金属箔は焼くと黒く発色。これを“銹(さび)”と呼び、経年の変化を表現。その上に金の上澄を用いて“窓”が無限に続く様を描いた「銹刻彩鉢 謳月(おうげつ)」(幅24.7×奥行き23×高さ26センチ)
時には意図しない破綻も生じますが、「それもまたよいのです。月のように、見る人それぞれの背景や記憶の中に滑り込んで自由に感じてもらえる、そんな余白をもつものを」。
高橋さんの模様は静かに語りかける月そのものなのです。
高橋朋子(たかはし・ともこ)インスタグラム:
@tomokorobockl1974年北海道札幌市生まれ。沖縄県立芸術大学大学院修了。2001年、千葉県八街(やちまた)市にて開窯。2011年より本格的に作家活動を始める。2019年「第8回菊池ビエンナーレ」奨励賞、2024年「第71回日本伝統工芸展」NHK会長賞、2025年「第17回現代作陶展」TOKI織部優秀賞受賞。
2026年4月4日~19日は隣花庵(愛媛・松山)、5月22日~28日はlucite gallery(東京・浅草橋)、5月30日~6月27日は離塵(台湾・台南)にて個展を開催予定。
(次回に続く。
この特集の記事一覧はこちらから>>)