〔特集〕~伝え継ぎたい手仕事~世界が憧れる「日本の美」 日本独特の美意識や感性、国民の手の器用さに支えられた世界でもトップクラスの匠の技は、私たち日本人が考える以上に海外の人たちを魅了する力を持っています。日本の手仕事を、今一度再評価し、次世代に継承すると同時に、今の暮らしに息づく道具として世界に発信していきたいと思います。
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通が注目する日本の手仕事
日本人の美意識と手の技が生んだ暮らしの道具には、世界に誇るべき独創性と実用美が宿っています。今こそ、その価値を見つめ直し、次代へ継ぐとともに、現代の暮らしに息づく文化として国内外に伝えていきたいと考えます。
鞍田 崇さん(哲学者)
(質問1)世界が憧れる「日本の美」を伝える人「日本の美」とは、完成された静的なものではなく、時代とともに生成し続けてきた動的な営みだと考えています。その実例としてご紹介したいのが、福島県昭和村を拠点に活動する「渡し舟」の渡辺悦子さんと舟木由貴子さんです。彼女たちは、苧麻(からむし)の栽培から糸を績み、布とするまでの一連の手仕事にかかわりながら、村の外と内を繫ぐ存在として、次代に向けた新たな形を模索しています。
渡し舟のからむし布(鞍田さん選):「渡し舟」が手がける、からむし布の製品。イラクサ科の多年草・からむしを土から育て、手で糸を績み、地機で織り上げた布を用い、形や寸法を工夫しながら無駄なく仕立てている。村では、生活のために織る布と、重要無形文化財への質の高い繊維としての提供、そのどちらも大切に受け継がれている。独特の張りとひんやりとした肌触り、そんな布を、日々の暮らしに。右・「ハンカチ」(41×41センチ)価格未定 左・「半座布団」(37×29×8センチ)価格未定/ともに渡し舟

写真/小松崎拓

「布の持つ魅力を今の暮らしに取り入れるきっかけになれば」と話す、「渡し舟」の舟木由貴子さん(左)、渡辺悦子さん(右)。(写真/武藤奈緒美)
(質問2)匠の技が光る「暮らしの道具」いろいろあって迷いますが、しいて一つに絞るなら、備前焼の木村 肇さんが手がける器たち。火襷(ひだすき)という備前焼に特有の技法を生かすとともに、土に宿る「やさしさ」を引き出し、備前焼でしかできない新しい器のカタチを提案されています。
(質問3)伝え継ぎたい「日本の美」江戸時代の茶人・川上不白の言葉に「茶は常のことなり」というものがあります。「常のこと」とは、当たり前の日常のこと。日々の暮らしの中にこそ美は宿るという感覚や、移ろう季節に目をこらすような丁寧なまなざしは、現代にこそ必要な美意識だと思っています。
小山薫堂さん(放送作家・脚本家)
(質問1)世界が憧れる「日本の美」を伝える人漆芸家で蒔絵の重要無形文化財保持者(人間国宝)・室瀬和美さん、陶芸家で書家でもある辻村史朗さん、美濃焼の幸兵衛窯8代目・加藤亮太郎さん、そして桐簞笥職人・東 福太郎さんを挙げます。それぞれの分野で研ぎ澄まされた感性と技を持ち、用と美の融合を実現している方々です。
家具のあづまのロックグラス(小山さん選):明治24年創業の「家具のあづま」が手がける、日本初の桐製ロックグラス。本来は器には不向きとされる軟らかな桐を、厚さ1ミリにまで削り出す独自の技術で、軽さと温もりを備えた美しい酒器に仕上げた。希少価値の高い桐簞笥職人の技を、現代の暮らしへと繫ぐ逸品である。桐の木が持つやさしい温もりを、日々の手のひらに。「桐のロックグラス」右・ナチュラル、左・柿渋オレンジ(直径8×高さ8センチ)各1万1000円/ともに家具のあづまMEMAMORU

桐簞笥づくりで培った知恵と工夫を礎に、暮らしに寄り添う器としての強さと美しさを形にする。
(質問2)匠の技が光る「暮らしの道具」「桔梗利(ききょうり) 内藤商店」(京都)の箒、「辻和金網」(京都)の手編みの金網、「有職組紐 道明」(東京)の組紐、そして木具師・橋村萬象さんの作品などに美を感じます。また、「中川木工芸 比良工房」(滋賀)の木桶職人・中川周士さんの桶や、「10eyevan」(福井)の眼鏡も、実用性と美しさを兼ね備えた逸品です。
桔梗利 内藤商店の箒(小山さん選):創業207年。京都・三条大橋のたもとに店を構える「内藤商店」は、初代の家訓「品質を看板に」を守り続けている。余計な装飾を省き、機能美に徹した箒はすべて手作業で製作。大量生産による簡略化を避け、使い手の声を生かしながら職人が改良を重ねてきた。その誠実なものづくりは、世界の職人やアーティストからも注目されている。右・「荒神箒大」(28×9センチ)3950円 中・「カルカヤキリワラ大」(15×3センチ)1750円 左・「棕櫚キリワラ」(13×2センチ)1650円/すべて内藤商店

箒の柄の先には棕櫚の木の繊維を束ねた「玉」が銅線で丁寧に巻かれ、結ばれている。

辻和金網の金網細工(小山さん選):1933年の創業以来、針金を一つ一つ手で編み上げる伝統技法で、日々の道具を仕立ててきた「辻和金網」。編み目は、六角形が連なる美しい亀甲目。用途に合わせて針金の太さやねじりの回数を変えるなど、職人の繊細な感覚が生きている。金属でありながら柔らかさと温かみを宿す道具は、壊れても修繕でき、長く使い続けられる。上・「手編みコーヒードリッパー(大)」(直径10×全長18×深さ6.5センチ)7700円 下・「ゆどうふ杓子(六角大)銅」(6×7×長さ20センチ)2640円/ともに辻和金網
(質問3)伝え継ぎたい「日本の美」「用の美」。華美な装飾よりも、日々の暮らしの中で使われる道具にこそ、真の美しさが宿ると感じています。