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工藤美代子さん綴る【快楽(けらく)】第3回「離婚後の彼女の人生(前編)」

潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。前回の記事はこちら>>

第3回 離婚後の彼女の人生(前編)

イラスト/大嶋さち子

文/工藤美代子

何が大切かといったら、それは女同士の友情だろう。サヤカさんが帰った後で、しみじみと思った。

彼女は私と同じ72歳だ。うちの近所の整形外科に通っているので、時々ふらりと立ち寄ってくれる。旦那さんはサラリーマンだったが、もう定年。娘と息子も結婚して孫が4人。育ったのは田園調布で、有名女子校に中学から大学まで通った。いかにもハイソな主婦という感じがする。しかし、彼女自身は特にそれを鼻にかけたりはしない。自然に品の良い優しさが滲み出ている。

「前にお話したわよね、高校の同級生だった内藤さんのこと」

「ああ、あの人。急に行方不明になったお友達でしょ」

私は、サヤカさんが、その内藤さんという友人と連絡が取れなくなったと心配しているのを知っている。サヤカさんは三人姉妹の長女なので、どこかお姉さんっぽい。私のこともなにかと気に掛けて、手造りの野菜サラダとか煮物などを持って来てくれる。

さて、その内藤さんだが、裕福な家庭のひとり娘で、暮らしぶりは若い頃から派手だった。ところが8年ほど前に両親が相次いで他界すると、彼女の夫が離婚を申し立てた。莫大な遺産を相続した直後だったので、内藤さんは気が大きくなったのか、簡単に離婚に同意した。夫婦の間に子供はいなかった。

サヤカさんは内藤さんの性格をよく知っている。なにしろ60年来の付き合いだ。彼女が離婚した当初から、私に不安を口走っていた。

「あの人ね、お金の管理なんかを出来ない女なの。だから友達の私たちが結束して、彼女を見守ってあげないとダメ」

なんと深い友情かと私は感心した。

この時、私もサヤカさんも64~65歳だったはず。人生におけるだいたいの困難、挫折、忍耐の時期を通過して、そろそろ終着駅の手前くらいに立っている。連れ合いや子供の欠点をいくらこぼしても、今さら離婚なんてする度胸はない。愚痴を体内にぎゅっと畳み込んで、このまま墓場まで持って行こうと腹をくくる年齢になっていた。

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