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喪失の悲しみに寄り添う言葉の力「日常の言葉では表せない深い思いを僕たちは歌でわかり合っていた」

2022.06.09

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喪失の哀しみに寄り添う言葉の力 第1回(全4回) 誰にも必ず訪れる大切な人との別れ。残された人は、その哀しみにどう向き合い、どう受け止めたら歩き出せるようになるのでしょうか。手紙や日記、ノート、絵本や詩集。それらに書かれた“言葉”が、喪失の哀しみを抱えて生きる心に寄り添う応援メッセージになることもあるといいます。癒やしにもなり、光にもなる言葉の力。心の奥に大事にとっておいた、大切な人との“言葉”にまつわる愛の物語を伺いました。

奥さま・河野裕子さんと心をつなぐ“31文字”
何を見ても君が思われ、今日も僕は歌を詠む


永田さん

歌人・細胞生物学者
永田和宏さん(ながた・かずひろ)


1947年滋賀県生まれ。京都大学理学部物理学科卒業。京都大学再生医科学研究所教授などを経て2020年よりJT生命誌研究館館長。京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。宮中歌会始詠進歌選者、朝日歌壇選者。2009年紫綬褒章受章。

亡くなろうとしている人に言葉で何が言えるだろう


永田和宏さんと河野裕子(かわのゆうこ)さん(1946―2010)は学生時代に知り合い、1972年に結婚。

相聞歌(互いに詠み交わす恋歌)を延々と作り続けるほどご夫婦の結びつきは強く、河野さんが乳がんで亡くなる前10年間の壮絶な家族の闘病記『歌に私は泣くだらう』(永田和宏著)は大きな話題を呼びました。

ともに歌人のお二人には、歌によって相手のことがよくわかる安心感と、わかりすぎるしんどさの両方があったといいます。




【永田さん → 河野さん】2010年、河野さんの乳がん再発後に。

一日が過ぎれば一日減つてゆく君との時間 もうすぐ夏至だ
(永田和宏『夏・2010』)


「河野が亡くなることを前提にした残酷な歌ですよ。残酷ではあるけれど、思いを知ってもらってよかったと思います」




2000年の発病時には“強がって”平静を装っていた永田さんですが、8年後に再発すると「僕のほうが耐え切れなくなってしまって。そのときがいちばんしんどかった」と振り返ります。

永田さんの心の大半を占めていたのは河野さんがいなくなることへの怖れと不安。それを詠む歌は彼女の死を前提としたものになる。

そんな歌を本人に見せられないではないか。しかし、今詠まなければ僕の思いは永遠に伝わらない──。悩みに悩んだ果てに後者が勝り、立て続けに発表することになりました。




【河野さん → 永田さん】2010年8月10日、亡くなる前々日に永田さんが口述筆記した歌。

長生きして欲しいと誰彼数へつつつひにはあなたひとりを数ふ
裕子


「河野がこれほどの傑作で僕への思いを伝えたのに、ばかだね、僕は。『いい歌やな』としか言えなかったんです」




河野さんも最後まで歌を詠み続けます。枕元の鉛筆でメモ帳に、そして薬袋やティッシュの箱にも。やがて鉛筆を持つ力がなくなり、漏れ出る言葉を家族が書き留める。

永田さんが口述筆記をした最後の歌は「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」(河野裕子『蟬声』)。亡くなる前日でした。

「間際の歌はどれも無理に絞り出すのではなく“つぶやく”という感じでしたね。僕は言葉を失ってしまって、言えたのは『いい歌やな』だけ。亡くなろうとしている人にその場で何かを言うのは、本当に難しいでしょう? いちばん知ってほしい、心の深いところにある思いほど日常の言葉では伝えられないもので。僕たちに歌という手段があったのは、すごくありがたいことだったと思います」
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