暮らしのヒント

工藤美代子さん綴る【快楽(けらく)】第2回「彼女は恋におちいった(後編)」

潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。前回の記事はこちら>>

第2回 彼女は恋におちいった(後編)

イラスト/大嶋さち子

文/工藤美代子

ある日、ミエさんが帰宅する時に木村さんと方向が一緒になった。チャンスだと思ったミエさんが自分の家に寄ってお茶でもいかがですか?と誘ったら躊躇せずについて来た。そこで、お茶を出しながらミエさんの方から告白したという。

小さな笑みを浮かべて喋っていたミエさんが、この後、突然のように木村さんとのベッドシーンについて語り出したのには驚いた。後から久枝さんに聞いたところ別に驚くことではないそうだ。木村さんの名前が出ると、ミエさんは滔々と2人の親密さについて話さないと気がすまないらしい。

変な表現だが、人間も80歳を過ぎたら、犯罪やヘイトスピーチでもない限り、何を喋っても許されるのだろう。もちろん喋る相手は選ぶけれど、自分の味方だとわかったらセックスについて語るのにタブーは不要ということか。

しかし、ミエさんの言葉をここにそのまま再現することは出来ない。正直に言って、私が恥ずかしいのである。したがって、ここでは私の判断で取捨選択しながら、彼女の語った内容を要約してみたい。

彼女はマンションに一人暮らしである。1LDKだから、寝室は別にあるのだが、居間の長椅子の上で木村さんはミエさんを抱きしめた。それからは木村さんがすべて主導した。この後の進行については今でも、順番が決まっているそうだ。まず、木村さんはミエさんの肩をそっと抱き寄せ耳元に口を寄せて小さな声で囁く。

「あなたのことが初めから好きだったんだ」「ずっと気になっていたから、夢みたいだよ」といった賛美を何度も繰り返す。最近は「あなたは美しい。素敵だ」と感嘆したように言う。ミエさんは照れくさくなる。

どうやら、木村さんは甘い言葉をシャワーのように浴びせる人のようだ。それは、かなりシニアの女性の扱いに慣れている証拠ではないかと、私はつい勘ぐってしまうが、ミエさんは素直に彼の言葉に感激している。

そして、まるで壊れやすいものにでも触れるように、そっと遠慮がちにミエさんの胸を愛撫するのだそうだ。

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