暮らしのヒント

刺繍作家 juno(ユノ)さんと作る、刺繍のある心豊かな暮らし「手を動かす時間が力をくれる」

夢と願いを糸に込めて 刺繍のある心豊かな暮らし 第1回(全6回) ここ1年半あまりで、家での新しい時間の過ごし方を模索されたかたも多いでしょう。刺繍糸と針を持って、ただひたすら手を動かすと、大きな安心感に包まれ、心が調整されると刺繍作家のユノさんは語ります。初めてでも刺せる図案と小物の作り方を参照しながら、刺繍のある、心が満たされる暮らしをご紹介します。

限りない安心感と喜びに包まれる時間

夢と願いを糸に込めて 刺繍のある心豊かな暮らし

宇宙空間を輝きながら、光速で飛ぶツバメを表したドレスの絵柄。2羽が出逢ってぶつかると、暗闇に溶け込みながら融合し、消えていくという作者の想像の世界。地球上の生き物はもともとひとつだったことに想いを馳せて、後ろ側は2羽から発する光が繋がる図案にした。

作る人/juno(ユノ)さん

幼い頃、お気に入りのカーディガンを公園のフェンスに引っかけて、穴を開けてしまったことがある。数日間絶望的な気持ちだったが、ある日学校から帰ると母が玄関で待っていて、穴を繕って上から花の刺繍をしたカーディガンを見せてくれた。

カラフルな花々が陽気に咲き誇る図案が楽しげで、穴を開けてしまった罪の意識は一瞬で浄化され、うれしさと安心感から私は泣いてしまった気がする。

母も母で玄関で私を待ち構えていたくらいだから、とびきり素敵にできた自信作を早く見せたくて、うきうきしていたのじゃないかと思う。カーディガンを着て母に抱きしめられ、私は世界一幸せな子供になった。今、刺繍をしていれば幸せなのはそのせいかもしれない。

夢と願いを糸に込めて 刺繍のある心豊かな暮らし

普段使っている道具は至ってシンプル。構想を決めてごく簡単なイメージを描いたらすぐに刺し始め、刺してゆく中で細かいニュアンスを出してゆくことが多い。写真上は書籍掲載作品の手描き原稿。

刺繍には布の補強や、持ち主の名前やイニシャルを縫いつけるといった実用的な面もあるけれど、刺繍をするいちばんの理由は、「あるとうれしいから」なんじゃないだろうか。あるいは「心強いから」でもいい。

世界各地の民族に伝わる伝統的な模様には魔除けやお守りのような意味があるし、太宰 治の『女生徒』には、誰にも見られない下着の胸のところに薔薇の刺繍をして得意になる描写が出てくる。自己完結した内向きの世界の中でも刺繍の存在意義はある。なによりも自分の気持ちがあがることが大切なのだ。

ならば刺繍をする時にも、刺すこと自体をうんと楽しんで良いのだと思う。子供のように素直な気持ちで、心のままを表現できたなら最高だ。

全身が針と糸になったような深い集中状態にいる時、日常の悩みや不安はすっかり消えて、完全に調和のとれたシステムの中でひとりでに身体が動いていくような安心感に包まれることがある。気づくと何時間も経っていて、頭の中がすっきり整っている。昔の人々は手仕事を通して神秘的な力と繋がり、長い夜や寒い冬を乗り越えてきたのかもしれない。

身に付けること以上に、手を動かす時間が力をくれる。その力はきっと現代の私たちの暮らしにもたえまなく注がれていて、本当はいつでも必要なだけ受け取ることができるのだ。

下の写真をスクロールして詳しくご覧ください。

ユノ/juno

juno(ユノ)さん

刺繍作家。心揺さぶられる美しいもの、ときめくものを刺繍した洋服や小物を制作している。ショップでの委託販売や作品の展示を中心に活動。今年の3月に初めての自著『junoの刺繍ノート 刺繍で描く植物と動物と物語』がグラフィック社より刊行された。


〔特集〕刺繍のある心豊かな暮らし

01 刺繍作家・juno(ユノ)さんと作る、刺繍のある心豊かな暮らし

02 元気をくれる相棒を胸に。刺繍作家 ユノさんが作る野生動物たち

03 初めてでもわかる「子猫のポーチ」の作り方

04 「子猫のポーチ」の作り方(後編)

05 「ヤドリギのポシェット」の作り方(前編)

06 「ヤドリギのポシェット」の作り方(後編)


この特集の掲載号
『家庭画報』2021年11月号

『家庭画報』2021年11月号

作る人/ユノ 撮影/本誌・西山 航 スタイリング/chizu

『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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