暮らしのヒント

うつ気分が忍び寄ってきたら、誰かと「対話」でつながろう

居場所を求めているあなたへ 最終回(全4回) 壮絶なご経験に心身の疲弊の極限まで追い詰められながらもすべてを受け止めて自分と向き合い、現在は他者を支える活動をされている西川ヘレンさん、本郷由美子さん、大空幸星さん。このコロナ禍、誰もが何らかの喪失感を抱え、うつ気分に沈みがちですが、お三方の生き様は私たちの心の一筋の光となり、きっと力をくれるはずです。精神科医・斎藤 環先生が提唱する「対話」の大切さ、相談窓口の存在も苦しいとき、あなたを支えてくれることでしょう。前回の記事はこちら>>

精神科医・斎藤 環先生に伺う「コロナ禍に慣れつつある今こそ心がけたいこと」

「うつ気分に陥りやすい今こそ、意識的に“対話”をしてほしい」と精神科医の斎藤 環先生は強調します。

対等な関係の双方向のおしゃべりが心の安定をもたらし、本音をいいやすい人間関係を育むのだ、と──。

これほどまでに深い意味を持ち、心によい影響を及ぼす“対話”を、ぜひ身につけたいものです。

斎藤 環(さいとう・たまき)先生
斎藤 環先生

精神科医。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は社会的ひきこもり。千葉県船橋市「あしたの風クリニック」(完全予約制)で診療を行う。「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン」の共同代表を務め、対話を用いた精神的ケアの実践にも取り組む。

家庭内の人間関係にも適度なディスタンスを

── 自粛ムードが長引き、いわゆるコロナうつが増えている状況を精神科医としてどのようにとらえていますか。

斎藤 環先生(以下敬称略) 孤立状態を楽だと感じる人が一定数いる一方で、大多数の人は誰かと会って言葉を交わすことで元気づけられるという事実がはっきりしました。リモートワークや外出自粛により家族が家に留まる時間が増え、家庭内の人間関係が密になりすぎると、しわ寄せは女性に集中しがちです。互いの言動に過敏に反応してイライラやストレスを募らせ、うつ的になる人、DVや虐待といった問題が増えていることはデータからも明らかです。家庭内にもソーシャルディスタンスが必要なのです。

── 密になりすぎず離れすぎず、適度な距離を保つことが大事なのですね。

斎藤 はい。望ましいディスタンスは「対話」によって保てると私は考えています。一方通行ではなく、自分の気持ちを言葉で表現し相手の話にも耳を傾ける双方向の対話ですね。対話がないと腹を探り合い、相手がネガティブな感情を持っているに違いないと思い込む傾向があります。そしてこのとき気をつけるべきは“会話”をしてはいけないということです。

普段から対話をする関係なら弱音も本音も吐きやすい
「人が安らげるのは、“対話”のある場所。たわいのないおしゃべりがお互いに通じ合える感覚を育むのです」── 斎藤先生

── 会話と対話……どう違うのですか。

斎藤 会話は合意形成のために行うもので、背景に自分の意見を押しつけようという動機や力関係が見え隠れします。そうではなくて、相手と自分は意見や考え方が違うことを認め、共有するのが対話。むしろ違いを楽しむくらいの気持ちで、どうということのないおしゃべりを続けるうちに、互いに通じ合える安心感が自ずと育まれるのです。

── ときには合意形成や問題解決のためのシビアな会話が必要なこともあります。

斎藤 対話が、よりよい会話のための土台づくりになると考えるとよいと思います。普段から対話をする間柄であれば、いざというときに弱音も吐きやすいし、本音もこぼれやすい。人が最も安らげるのは常に対話がある状況です。誰かと対話でつながることは心を落ち着かせ、うつ気分を回復させる効果があるのです。

── 私たちは、無意識に会話をしていることが多いように思います。

斎藤 往々にして力関係は呼び方に表れますね。「お前」呼ばわりは相手を見下している意識の表れですし、夫婦で「お父さん」「お母さん」と呼び合うのも長期的には役割固定につながる可能性があり好ましくない。対話は対等が前提ですから、私は名前に「さん」をつけて呼ぶのがよいと思っています。また一対一だと力関係が際立ち、密室状態にもなりやすいので、今はコロナ禍で難しいけれど、できれば3人以上で話すと緊張がほぐれ、安心感を得られやすくなります。

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