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フランス移住1年生が感じた、BIO先進国フランスが抱えるジレンマとは?

意外となんとかなる!? 40代のフランス移住 Season2

ファッションライターとして『家庭画報』をはじめ、大人の女性に向けた雑誌で活動してきた河島裕子、改め、ルロワ河島裕子が、夫の故郷であるフランスに家族3人で移住することを決意。42歳で初の海外移住を遂げ、その初心者ならではの目線で移住ライフの模様をお届けする、エッセイ連載第2弾。フランス北部の田舎での生活、そして伝統行事や子供のこと、フランスの地方を旅した模様などをリポートしていきます! 今回は、多くの人が関心を持つフランスの“BIO(ビオ)”事情について、2回にわたりお届けします。前回のエピソードはこちら>>>

第4回 BIO先進国フランスの食文化に触れる<後編>

BIOに異を唱える生産者も!?

前回は、2000年以降急成長を遂げるフランスのBIO(オーガニック)市場とフランス人の食の安全性への意識の高さについてお伝えしました。

そんなBIO大国のフランスではありますが、すべての生産者がBIO推進派とはいかないようです。ある時ワイン醸造家の方とお話をしていたときのこと、ABマーク(フランス農務省のBIO認定)の基準の厳しさについて語っていました。

BIOを掲げるには、まず農薬に汚染されていない安全な土地が必要です。かつて農薬が使われていた土地なら、転換までに何年も要し、農薬などの汚染から土を回復させるところから始めなくてはなりません。

ABマークを維持する大変さ

また農薬を使っている近隣の農地から、土壌を伝って影響を受けることも考えられます。さらに有機農法は栽培に手間がかかりますし、一度BIOと認証された農作物や商品でも、定期検査でわずかでも基準をクリアできないとそのラベルを剥奪されてしまう上、再びBIOと認証されるまでには、かなりの時間がかかるのだそうです。

その基準に納得いかず、有機農法に近い、もしくは同様の手法を取りながらも、あえてBIOをうたわない農家さんも結構いるのだとか。

またワインに関しては、1000年以上も変わらぬ自然と調和した農法で、ABマークにこだわらずブドウ栽培&ワイン製造をしている生産者たちも数多くいるそうで、ABマークだけがオーガニックであると認識することにも誤解があるといえます。

春、ブルゴーニュのラ・ロシュポ近隣の村のワイン畑にはたくさんの野花が。除草剤をまかない自然派の手法ゆえ、畑にはたくさの雑草が生えていました。

急成長するBIO市場。一方で課題も……

「The World of Organic Agriculture」のデータによると、2017年度のフランスのBIO製品の売り上げは79億2100万ユーロと、100億4000万ユーロのドイツに次いでヨーロッパ第2位。

しかしこれは物価や人口に応じて、全流通品の割合は変わってくるので、一概にBIOが浸透した結果とはいえませんが、2010年に比べるとその金額は約2倍で、この数年で急成長していることがわかります。

一方でフランスは大規模農家が多く、全体の農地のかなりの部分は大規模農家所有のもので、実はヨーロッパでは屈指の農薬大国でもあります。

先日、フランスのメディア「リベラシオン」のウェブサイトで見たデータでは、2017年時点でフランスのBIO認定農地は全体の6.5%。あれれ? 意外と少ないなぁ、という印象です。

麦畑に赤いコクリコや雑草が混じって生えているのを、近隣の畑でもよく見るようになりました。土壌が健康になってきていることの証拠の一つ。

農業大国フランスが抱えるジレンマとは?

政府はこれを2022年には15%まで引き上げたいと考えているようですが、2014年の時点では2020年までに20%を目指すとしていたそうなので、かなり下方修正されたようです(フランス政府の環境総会Grenelle del’environnementによる方針)。

この思ったようにBIO認定農地が拡大していない背景には、これまでに農薬散布のために多額の設備投資をしてきた大規模農家たちにとっては、すぐにBIOに転換しても投資金の回収の見通しが立たず、なかなか自然派農業に切り替えられないというジレンマもあるようです。もちろん、栽培に何倍も手間や人件費がかかるということも大きな理由でしょう。

日本ではBIO先進国フランスのよい部分、進んでいる部分ばかりがフォーカスされがちですが、こういった事情を知ること、伝えることも大切だと、個人的には考えます。

2019年、安全な農業へ一歩前進

これは日本のウェブメディアから得た情報ですが、今年2月発表された、フランスのNGO団体「Generations Futures」による“BIOではない野菜や果物”を対象に行われた残留農薬の調査結果(食品検査を行うDGCCRF(競争・消費者問題・詐欺防止総局)による2012年~2016年のデータを基にしたもの)では、「残留農薬基準を超えている(BIO以外の)果物や野菜の割合は、フランスはヨーロッパの中でも最も高い」というかなり怖い結果が出ています。

あの除草剤の販売禁止を決定したフランス政府

またフランスでも多くの農家が、かの米国アグリバイオ企業の除草剤などを使用してきた事実もありましたし、そういった農薬の使用によりミツバチが激減するなど、それらが環境や生態系に及ぼした影響は大きかったようです。

そういった現状を重く見たフランス政府は、今年、安全性が問われているその除草剤の販売禁止を決定。農作物の安全性において、大きな前進となりました。ちなみに現在その除草剤の生産&販売権は、ドイツの大手製薬会社が保有するため、欧州内でもその利害関係から対応が分かれているようです。

土地の健康化を生態系のポジティブな変化をリアルに体感

こういったフランス国内の反除草剤への動きは、実は畑に囲まれた私たちが住む村でも感じることができます。近所の麦畑には、麦に混じり、鮮やかな赤いコクリコ(ひなげし)の花など雑草を目にすることがしばしばあるのですが、夫いわく「10年前まではほとんど見なかった光景」で、以前のように除草剤が使われなくなってきている(もしくは減薬している)ことを証明する、とてもポジティブな変化だと感じているようです。

また我が家の庭にも、数年前に比べて随分多くのミツバチが訪れるようになったそうで、周辺の農地が少しずつ健康になってきていることを、こういった現象から知ることができます。

今では、我が家の庭にも頻繁にミツバチたちが訪れます。

食育にも力を入れるグルメ大国、フランス

ちなみにフランスでは、食育にも力を入れているという話をよく耳にします。

友人の息子が通うパリの幼稚園では、給食にもBIOやラベルルージュ(高い品質の食料品に与えられる品質認証)のものが頻繁に使用されていたり、ブルターニュのある小学校では近所のBIO農家と提携して無農薬の地域食材を使用した給食が提供されているというドキュメンタリーのTV番組を見たことがあります。

10月に開催される「味覚の1週間」イベント

他にも、10月には「味覚の1週間」と呼ばれる全国的なイベントがあり、なかでも「味覚のアトリエ」と呼ばれるイベントでは、有名な星付きレストランを含む多くの飲食店がメニューを用意。

学生には学割価格で食事を提供するなど、普段はなかなか高級店に足を運べない若い年代に、新しい味覚を発見する機会を与えるという狙いがあるそうです。

これは、子供たちの食文化の乱れが深刻な社会問題となっていた1990年、一人のジャーナリスト、ジャン=リュック・プティルノー氏とパリのシェフたちが一緒になり、「味覚の一日」を開催したことに始まります。

一方で地域間に大きな格差も……

ただ、これは必ずしもフランス全土とはいかないようで、あくまで比較的豊かな地域や都市部の話、という側面もあるでしょう。

息子は自宅で昼食をとっているので、地域の給食事情は詳しくはわかりませんが、公共教育への予算の乏しい近隣エリアでは、真冬でも食堂の暖房を入れず子供たちがコートを着たまま食事をしていて、保護者から苦情が出たとか。

ただでさえ厳しい教育予算が削減され学校の先生たちがストを決行した(なんと、息子の通う学校ではこの半年で2回もストがありました!)など、教育に関しても悲しい噂が耳に届くこともあり、地域によっての温度差を感じずにはいられません。

時代の空気やサステナブル志向に触れることのできるレストラン「LE BEL ORDINAIRE」。

「食」の世界も、トレンドは“エシカル”&“サステナブル”

しかし、世界中共通して言えることですが、地球や人に優しいBIO食品もそうですが、今、生活全般に永続可能(サステナブル)であることが、人々の心を引きつけていることは間違いないようです。BIOだけでなく、ポリシーのある小さな生産者による食材や安全性の高い食品を集めた食のセレクトショップもよく目にします。

先日、パリのとあるレストランに訪れました。

「LE BEL ORDINAIRE」は、長年食の世界を取材してきた有名フードジャーナリストによって、彼がこれまで出会った優良な生産者と一般消費者を繋ぎ、美味しい時間をシェアするという理念のもと、友人やその趣旨に賛同する人たち100人以上からクラウドファウンディングを通して支えられ生まれたという、エピスリー(食料品店)かつレストランです(昨年家庭画報.comでも紹介されていました)。

こちらはBIOに特化したお店ではありませんが、そのコンセプトにも共感しますし、素直に食材の味を生かした調理法で提供される料理と自然派ワインは、とても美味!

時代の気分を反映した気取らない食堂的な空間とフィロソフィー、おいしい料理、そしてフレンドリーな接客に、五感を刺激される幸せな時間となりました。

「LE BEL ORDINAIRE」でいただいたズッキーニのガスパチョには、細かく刻まれた有機のレモンピールコンフィチュールがアクセントに加えられて。その意外性のあるおいしさは初体験のお味。

食の先進国フランスにも改善すべき環境問題が

一方で、食への意識は高くとも、フランスはゴミ問題にしても北欧諸国などのエコ先進国からは遅れをとっている気がしますし、車の排気ガス問題も早くからエコカーに取り組んできた日本に比べるとかなり深刻。

この国に暮らすものとして、そしてこの国で育っていく子を持つ親として、まだまだ進化していくことを望み、自分もそこに積極的に参加できるよう努力するつもりです。

次世代のためにできることは!? 「地球人」として考える

いずれにしても、次世代にできる限り明るい未来を託せるよう、「一地球人」として何ができるのか考えさせられる日々です。

それは、良い面も悪い面も、日本と他国との違いを知り、肌で感じることのできる移住生活によって、物事を今までよりも一段深く考える癖と、「当たり前を当たり前と思わない」という意識が芽生えたおかげでもあります。

個性的でマイペースなフランス人たちにブンブンと振り回され、神経をすり減らすことも度々ある移住生活ですが、自分の知らなかった世界に触れることの大切さを実感しています。

次回は、約1年弱暮らした北フランスでの暮らし、見所をご紹介します。

ルロワ 河島 裕子 / Hiroko Kawashima Leroy

ファッションライター

『家庭画報』をはじめ大人の女性に向けた雑誌で、ファッションやジュエリー、時計を中心に幅広く執筆。2018年9月より、家族とともに、生活拠点をフランス北部の田舎に移す。夢はワインの聖地・ブルゴーニュでB&Bを営むこと。パリで道ゆくおしゃれな人に体当たり取材する「パリ、大人のおしゃれの見本帳」を家庭画報.comで連載中。

「40代のフランス移住」 シーズン1はこちら>>>

フランス移住こぼれ話

北フランスの人は閉鎖的。

これは、北フランスに住んで感じたことでもあり、実際に周りのフランス人たち(パリに住む人、以前北フランスに住んでいて他地方に移住した人、今北フランスに住んでいる人)も口を揃えてそう言います。

なぜ私がそう感じたかというと、フランスに住み始めたばかりの頃、息子の学校の送迎時に会う保護者の人たちに「ボンジュール!」と挨拶しても、ほぼ誰も挨拶をしてくれなかったから。当初、これは私が外国人だからだと思っていたのですが、フランス人の夫に対しても同様だったそうです。周囲を見ていると、私たちだけでなく、基本的に交友のある人以外は挨拶しない、というのが通例のよう。

そこで私は学校の周りですれ違う人全員、誰彼構わず「ボンジュール!」と笑顔で挨拶しまくる“ボンジュール運動”を続けてきました。10か月たった今では、すっかり“ボンジュールおばさん”として認知されたようで、ほとんどの方が私を見ると「ボンジュール!」と声をかけてくれるように。いやぁ、挨拶って、本当にいいものですね。

実際に北フランスの人は心を開くのに時間がかかるが、一旦心を開いたらとても愛情深い、という側面があるようです(そんな話をモチーフにした映画もあるのだとか)。

我が家も隣人たちとは、頻繁におすそ分けをし合ったり、庭の管理に必要なものを自由に使わせてくれたりと、とてもよい関係を続けています。

写真・イラスト・文/ルロワ 河島 裕子

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